ビジネスロー・ダイアリー

中年弁護士の独り言兼備忘録

ウクライナに対する侵攻に関するロシアに対する制裁について③

EUの制裁も同様に考えられる。EUのロシアに対する制裁は2014年のクリミア侵攻から始まっており、このときに制定されたEU規則を改正することで今般の制裁を課している[1]。ロシア制裁に関して基本となるEU規則はCouncil Regulation (EU) No 269/2014とCouncil Regulation (EU) No 833/2014だ。前者は主に資産凍結等の金融規制が定められており、後者は一定の物品輸出の禁止、新規投資の禁止等その他の規制を定めている。このいずれもEU規則にも適用範囲が定められており、その範囲は①域内での行為、②加盟国民による行為(EU域内域外を問わない)、③加盟国法により設立された法人及び④域内で事業を実施する法人(設立国を問わない)となっている。日本企業と関係するのは④であり、④は一見すると規制の範囲はかなり広範囲に及ぶ。しかし、条文の文言を見ると、" to any legal person, entity or body in respect of any business done in whole or in part within the Union"とされており、EU域内で行われる事業に対してのみに適用されると一定の歯止めをかけている。また、2018年5月4日付けSanction Guideline[2]によれば、域外適用に対しては消極的なことがみてとれる。したがって、常識的に見て問題となる事業とEUが関連しない場合、上記EU規則は適用しないと考えてよいであろう。例えば、日本企業(又はその子会社)が関連取引とは無関係にEU域内で事業を行っていたとしても、問題となる事業自体でみればEUが無関係である場合[3]、当該日本企業に上記EU規則が適用されるリスクは低いと考えられる。

 

[1] もっとも、VISA発給の停止等新たに導入された制裁のうち一部は新たなEU規則が制定されている。

[2] https://data.consilium.europa.eu/doc/document/ST-5664-2018-INIT/en/pdf

[3] 当該事業レベルではEUに関係するものの、個別の取引はEUと関係しないという状況も考えられる。この場合の判断は難しくなってくる。