ビジネスロー・ダイアリー

中年弁護士の独り言兼備忘録

企業法務

悩ましいM&A契約の実務問題:クロージングまでの情報提供

M&A契約の実務的な悩みどころとして、私が実務で出会った悩ましい問題をこれからシリーズとして取り上げていきたい。記念すべき第1回はクロージングまでの情報提供について書いていきたい。 M&Aは、契約締結から取引の実行(クロージング)までに一定期間が…

雑感:M&A・組織再編スキーム 発想の着眼点70

M&Aロイヤーたるもの、少なくともディールに関係する税務問題の勘所は分かる必要がある。それはずっと分かってはいたものの日々の業務やプライベートに忙殺され、ずっと後回しになっており、ここ数年ほんのりと後ろめたい気持ちを抱えていた。そんな私もこの…

M&Aロイヤーが学ぶべき近接領域

今日は弁護士は隣接領域を学ぶべきかという弁護士であれば誰でも直面する問題について私の考えを書いてみたいと思う。想像のとおり、この答えはYesであろう。特に自分が専門とする分野の近接領域は学ぶべきだ。例えば、Tech関連のスペシャリストになりたいの…

司法試験におけるPC使用解禁の寄せて

司法試験がついにPC利用を解禁するらしい。腱鞘炎になりつつも答案を作成していた世代からすると隔世の感がある。確かに、ペンで長い訴状・契約書etcを書くことなんて決してない時代であるので、PC利用を認めるのが当然であろう。そういえば遠い昔に受験した…

JIPによる東芝に対する公開買付けに関する契約の雑感②

4.表明保証 5.取引保護条項 6.終わりに 大分時間が経ってしまったが、JIPの東芝に対する公開買付けについて筆を進めていきたい。 前回はこちらから businesslaw-diary.com 4.表明保証 表明保証についても予告プレスには記載されている。JIP側の表明保証…

JIPによる東芝に対する公開買付けに関する契約の雑感①

はじめに このブログでも紹介した東芝の非公開化の案件がついに一段落がついたようだ。これまでの報道からはJIPと政府系ファンドのJIC(正確にはその子会社のJICキャピタル)が争っていたようであるが、最終的にはJIPがスポンサーとなることで幕引きとなった…

AI時代の法律業界?

はじめに AI時代の法律業界のストーリーその1ー中小事務所の躍進? AI時代の法律業界のストーリーその2ー大規模事務所の寡占化? AI時代のために何をすべきか? はじめに AIの進化には驚かされる。GPT3からGPT4の進化は非連続的なものを感じざるを得ない。私…

秘密保持契約における目的外使用その2:情報の色付けの可否について

はじめに 甲乙Aの例 NDAの前提 解決の方向性 はじめに 今回は前回に続く秘密保持契約(NDA)に関するエントリーである。 前回の記事はこちらから: businesslaw-diary.com さて、前回の記事は目的外使用について記載したが、今回は情報は色付けできるか?と…

秘密情報の目的外使用を遵守することの難しさ

秘密保持契約、通称NDA(Non Disclosure Agreement)は企業法務の世界では初歩の初歩で、私も若いころは千本ノックのようにNDAのレビューをしていた。しかし、年次があがるにつれて、NDAは若い人に任せてしまっており、実はここ数年は真面目に検討をしていな…

Rights of first offer? Rights of first refusal?

新年の抱負 久しぶりの投稿になってしまった。忙しくてブログから少し遠ざかると、すぐにブログを書く習慣がなくなってしまう。今年は月一(願わくば月二)でM&A関連トピック、法務トピック又はその他の雑トピックを書いていきたいと思う。 今回何を書くか迷…

オイシックスによるシダックスに対する異例な公開買付け③ - コロワイドによるフード関連事業の買収提案

はじめに 日経の記事:コロワイドによる買収提案 ユニゾンによる応募方針の公表 シダックスの反応 今後の見通し はじめに シダックスの件で新たに続報が出ましたので今日は少しだけこの件について書きたい。これまでのシダックスの件のエントリーはこちらか…

オイシックスによるシダックスに対する異例な公開買付け② - シダックスの反対意見表明

はじめに 反対意見で判明した新たな事実を踏まえた本件の経緯 シダックス取締役の反対理由 ①A.について ①B.について ②について まとめ ユニゾンが主張するインサイダー取引の該当可能性 決定の有無 撤回の有無 公表の有無 小括 今後の見通し 終わりに はじめ…

3D Investmentの富士ソフトに対する臨時株主総会の請求に関する法的論点について思いつくままに書く

はじめに 現段階での論点:臨時株主総会の招集請求 今後の論点 考えられる主な法的論点 ①各種会社資料の閲覧謄写請求 ②臨時株主総会の招集決定 ③総会検査役の選任 ④委任状争奪戦 ⑤株主総会運営 ⑥株主総会決議の取消し等の訴え 終わりに はじめに 最近はどこ…

オイシックスによるシダックスに対する異例な公開買付け - 創業家一族とユニゾン/シダックスの対立?

はじめに 背景 ユニゾンが応募契約を締結しなかった理由 オイシックスの反論 今後の見通し はじめに オイシックスがシダックスに対してディスカウントTOBを開始した。通常、ディスカウントTOBは特定の第三者から株式を取得することを目的として実施されるも…

東芝を巡る物語 - 第二次入札までを振り返る

はじめに 背景事情その1:東芝の不正会計 背景事情その2:東芝の不透明な総会運営 2021年4月:CVCからの買収提案 2021年5月:戦略委員会の設置 2021年11月:戦略委員会の推奨を受けた3社分割案 2022年1月:株主からの中止提案 2022年3月:臨時株主総会の実施…

村上ファンドvsジャフコの行く末 - 近時の有事の買収防衛策に関する裁判例を踏まえて

はじめに 近年の買収防衛策の潮流 典型的な買収防衛策 裁判所の判断枠組み ジャフコの案件の帰趨 北関東の弁護士の(どうでもいい)雑感 はじめに いわゆる村上ファンド系列のファンドである株式会社南青山不動産及び株式会社シティインデックスイレブンスの…

未知の世界の第一歩 - クロスボーダーM&Aの契約実務の雑感

今日は本の感想をつらつらと書いていきたい。今日の本の著者が所属する東京国際法律事務所(TKI)は各種法律雑誌に取り上げられており、実際に各社が行っている統計やランキングでも顔を出している。私の四大の友人にも、同事務所への転籍を考えている者もい…

お詫びとしての「200円」じゃ気が済まない?-KDDIの通信障害に基づく補償について

仕事にかまけて、久しぶりの投稿になってしまった。高頻度でブログを投稿している人を尊敬しつつ、話題となっているKDDIの返金対応が公表(以下参照)されたため、今日はこの点について契約約款を確認しながら検討していきたい。なお、いつものことであるが…

司法修習生は何を勉強すべき?総論編

最近話題になっている修習生は何を勉強すべきという質問に対する私なりの回答について少し書いてみたい。修習生時代なんて(遠い目…)という感じではあるが、実務に怯えていた当時の自分を思い出し、当時の自分にかけてあげたい言葉を考えてみる。 まず、印…

13兆円の損害賠償の行方 - 東電旧経営陣が負う経営責任④

昨日のエントリーの続き: businesslaw-diary.com さて、今日は役員等賠償責任保険について書きたい。会社法は役員等賠償責任保険契約について締結手続き(例えば、東電の場合は取締役会の決議が必要)を定めているにとどまり、その具体的内容は保険会社と会…

13兆円の損害賠償の行方 - 東電旧経営陣が負う経営責任③

昨日のエントリーの続き: businesslaw-diary.com 今日は、5.会社との間の補償契約について考えてみよう。会社との間の補償契約とは、(1)取締役の訴訟等対応費用、又は(2)取締役が第三者に対して支払う損失額や和解額を会社が負担する約束のことである…

13兆円の損害賠償の行方 - 東電旧経営陣が負う経営責任②

昨日のエントリーの続き: businesslaw-diary.com まずは3.取締役会の決議に基づく責任の一部免除について検討したい。これは定款に「取締役会の決議がある場合には取締役の責任を一部免除できる」との規定がある場合に、取締役会の決議により取締役の責任…

13兆円の損害賠償の行方 - 東電旧経営陣が負う経営責任①

東京地裁は、福島第一原発の事故に関して、東電の旧経営陣に対して合計13兆3000億円の支払いを命じる判決を下した。この判決は、東電の旧経営陣に対する民事上の責任を認める始めての判決であることはもちろんのこと、その13兆円という莫大な損害賠償を認め…

開示資料から考えるツイッター社買収合意の解除の可否③

以下の昨日のエントリーからの続き。今日は少しだけここまでの議論をまとめてみたいと思う。 businesslaw-diary.com さて、以上の分析からすると、仮にツイッター社がスパムアカウント等の情報をマスク氏に提供していないとすると、実は法律論的にはマスク氏…

開示資料から考えるツイッター社買収合意の解除の可否②

今日は毎日の以下のエントリーの続きを書きたい。 businesslaw-diary.com 情報提供義務違反で争うのが難しい場合、ツイッター社のさらなる防御を考えられないだろうか。一つ考えられるのが、契約違反はあるが、解除事由には該当しないという主張だ。本解約通…

開示資料から考えるツイッター社買収合意の解除の可否①

イーロン・マスク氏のツイッター買収提案の撤回が話題を呼んでいる。 マスク氏とツイッター社は、今年の4月25日、マスク氏によるツイッター社買収に合意していたが、報道によると、マスク氏はこの合意の撤回(解除)をツイッター社に通知したとのことだ。今…