ビジネスロー・ダイアリー

中年弁護士の独り言兼備忘録

プロフェッショナルファームにおける上司論

やっと私にも後輩というものができてきており、上司とは何かについて考えさせられることが多い。今日は私が考える上司像について少し書いてみたい。

 

まずプロフェッショナルファームにおける上司の役割とは何か?一番の役割は仕事をとってくることだろう。プロフェッショナルファームではジュニアは手を動かす仕事、シニアが仕事をとってくると相場が決まっている。この理由はジュニアレベルでは依頼者と対等に話せず(依頼者の方が詳しいことも多々あり)、仕事をとってくるのが難しいからであろう。また、依頼者も責任ある立場の方が多く、社内での説明責任を果たすうえである程度キャリアを重ねた弁護士に依頼をせざるを得ないという側面もあるだろう。

 

かく言う自分もジュニアレベルでお客さんを獲得しようと試みたが、同年代であればまだしも、やはり一回り二回り上の世代の担当者にお客さんになってもらうのには高い壁を感じた。

 

さて、仕事をとってくることができたとして、次はチームメンバーを使ってプロフェッショナルなクオリティの成果物を作らなければならない。プロフェッショナルファームのメンバーであれば仕事のクオリティを高めることが個人の技能を高めることに通じるので(仕事の成果が個人の成長に直結するので)、放っておいてもある程度の成果物はできる。しかし、これで満足してはいけない。他の競合も同じようなクオリティは出すことができ、これを続けるだけではいつかは競争力を失い、顧客を失ってしまう。

 

したがって、チームメンバーの個々人のディスプリンに任せるだけでなく、チームメンバーの熱意を高め、普通以上のコミットを出せしてもらわなければならない。

 

では、このようなコミットをチームメンバーから引き出すために必要な要素は何か?

 

私は、上司がチームメンバーからリスペクトされることがもっとも重要と考える。自分自身のジュニア時代を鑑みるにやる気がでるか否かは、①案件の種類と②働く人に影響される。①については、自分の興味関心がある案件か否かであり、例えば、自分の場合は敵対的買収(今風にいうと同意なき買収)のようなお祭り案件は燃え尽きるまで働いた。②は、チームメンバーも重要であるが、上司が誰であるかは大きかった。上司が尊敬できる人または好きな人であれば、タイトな案件・厳しいクライアントでも、「あの人のためなら仕方ない」と思えた。①にも②にも該当しない場合、自分のコミットメントはどうしても落ちてしまっていたように思う。

 

さて、これを上司の立場から考えた場合はどうか?

 

まず①については適材適所になるようなチームメンバーの構成を考えるという当たり前の結論にいきつくだろう。そのためにはチームメンバーの興味関心・稼働状況に日頃から気を配っておく必要がある。ただ、私の事務所のようにスモールな事務所では人材が常に枯渇しており、最適なメンバー構成を考える余地がない場合もある。

 

そうなると、より重要なのは②になるが、では、どうすればチームメンバーから尊敬されることができるのか?これもジュニア時代を振り返って考えると、能力若しくは人格のいずれかが優れている人でなければ尊敬できなかった。もちろんいずれも優れているのが望ましいが、そのような人は中々いない(むしろこれはなぜか反比例の関係にあるような気さえする)。したがって、上司にとって重要なのはこのいずれかを磨かなければいけない。

 

事業会社のようにそもそも目的から考える必要がある場合と異なり、プロフェッショナルファームでは目的は明確であり、進むべき方向ははっきりしている。そのような職場では人格と能力を磨くという職人的な素質がリーダーシップにおける重要な要素になっているように思う。

 

一時期プロフェッショナルファームの経営層に外部人材を取り入れることがしきりに議論されていたが、上記のようなプロフェッショナルファームのリーダーシップの在り方を考えると、外部人材にプロフェッショナルファームを経営するのは相当程度困難なように思う。やはりその事務所内で能力と人格を認められた人物が経営すべきなのだろう。

 

話が少し大きくなってしまったが、私が思うプロフェッショナルファームにおける上司像を今日は書いてみた。自分で書いていてなんであるが、この業界で生きていくことは仕事自体が好きでないと中々大変であるなと改めて思わされる結果になってしまった。今日も明日も明後日も勉強をしなければ。。。