ビジネスロー・ダイアリー

中年弁護士の独り言兼備忘録

M&Aロイヤーが学ぶべき近接領域

今日は弁護士は隣接領域を学ぶべきかという弁護士であれば誰でも直面する問題について私の考えを書いてみたいと思う。想像のとおり、この答えはYesであろう。特に自分が専門とする分野の近接領域は学ぶべきだ。例えば、Tech関連のスペシャリストになりたいのであればTechの勉強は必要だろう。では、私のようなM&Aを専門(重きを置いている?)弁護士において隣接領域とは何だろうか。M&Aは知の総合格闘技と言われるように、ファイナンス、会計、税務、法務そしてビジネスそれ自体が関係する。したがって、学ぶべき近接領域も当然にして広くなる。もちろんこの分野全てに詳しくなることが望ましい。しかし、実務を回しながらこれらの分野に全て詳しくなるのは某四大のスーパースターのような先生ではないと無理だろう。

では、この中でどの分野を注力すべきだろうか。個人的な回答としては、ファイナンス、その中でも特にバリュエーションだと思う。私もまがいなりにもこの仕事を10年近くしてきたが、バリュエーションの勉強をしてから、M&Aをより立体的に捉えることができるようになった。

バリュエーションがなぜ重要か。分かりやすいところで言えば価格調整条項に影響するからだ。価格調整条項は会計的な観点からも確認する必要もあるが、同時に何をどのようなロジックで調整するかはバリュエーションの観点から考える必要がある。例えば、価格調整の一部となっている「有利子負債」は、財務モデルにおいてエクイティバリューを計算するために算出した有利子負債及び有利子負債同等物(デットライクアイテム)と対応しているか。これが対応していない場合、依頼者が考えている株式価値(=財務モデルで見ている株式価値)と価格調整の結果算出される株式価値(=実際の支払額)がずれてしまうことになる。このようにバリュエーションの基礎的理解があることは価格調整条項を検討するうえで必要不可欠である。

さらにいうと、M&Aで一番重要なのは価額だ(もちろんこれは一般論である。全く別のアングルからM&Aが実施されることもある。)。したがって、依頼者の興味関心は必然的に価額に影響する事項に集中する。価額は当然ながらバリュエーション理論に基づき検討されるので、バリュエーション理論を知っていれば、依頼者が何を議論しているのか、何を懸念しているのかの理解が深まる。法務DDの報告会で「事業計画に織り込まれているのか」といったやり取りを一度は聞いたことがあると思う。事業計画に織り込まれている=将来CFに対する影響を考慮している=価額に織り込まれているということなのであるが、この言葉が多用されることから明らかなとおり、依頼者が真に興味があるのは価額なのである。

とここまでバリュエーションの重要性を語ってきて、後は自分で勉強してください、というのは少し無責任な感じがするので、私のお勧めの本を紹介する。

まずはこちら。こちらの本の目的はバリュエーションの理論を学ぶ上での大前提となる財務三表の結びつきを理解することだ。会計的な知識があまりなくても財務三表の結びつきが理解できる圧倒的な名著である。

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これを踏まえたうえでバリュエーションの理論を学ぶことになるのが、理論面からの説明はこちらの本で十分であろう。そこまで長い本ではないが、実務で使われているバリュエーションの考え方としてはこれで十分。

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そして、バリュエーションの実践編としてはこちらの本がよい。この本には様々なバリュエーション理論が紹介されているが、まずはDCF法部分を学べば十分だろう。こちらの本にはエクセルファイルも付属されており、実際に手を動かして、学んだバリュエーション理論を実践できる。読者諸兄もご理解のとおり、アウトプットをすると一気に理解が深まる。

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いずれも名著であり、私が紹介する必要のない本ではないが、これらの本を学べば、弁護士として理解しておくべきバリュエーション理論としては十分だろう。むしろ、この程度のことも理解していない弁護士が多いので、これらを知るだけで十分差別化につながると思う。