ビジネスロー・ダイアリー

中年弁護士の独り言兼備忘録

平本蓮選手 - カリスマ性と努力を兼ね備えた稀有なアスリート

閑話休題で、平本蓮選手について書いてみたい。なお、私はいわゆるにわかファンなので、にわかファンからの目線ということで見て欲しい。

 

平本蓮選手を知ったのは、多くの人と同様、2020年の大晦日の萩原京平選手との試合からである。彼の強気の発言、K1での実績、またビジュアルから、とても大きな期待をした。試合前のパフォーマンス(本人曰く、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの登場人物の仕草らしい)もその期待をより大きなものにした。しかし、試合が始まって最初の立ちの攻防は素晴らしいものがあったが、その後は萩原選手が一方的に試合を進め、そのまま萩原選手がKO勝ちをした。もちろん寝技の対策が十分にできていないということもあるのだろうが、萩原選手にマウントをとられたとき、闘争心がなくなっているような顔つきも見れた。試合前の強気の発言からは考えられない顔つきをしていた。何もできずにKO負けした事実、また、ファイティング・スピリッツを感じられなかったことから、多くの格闘技ファンは彼の実力にがっかりしただろう。

 

しかし、彼は転んでもただでは起きなかった。大晦日で惨敗後も、ツイッターで強気の発言を繰り返し、とくには炎上をして、話題を振りまいていた。私も特に彼をウォッチしていたわけではないが、なんとなく彼の情報は耳に目に入っていた。また、彼の格闘技を見る目は本物であった。番組(主にABEMAだと思う)や自身のインスタライブで試合予想をしていることがあったが、その試合予想は的を射ていることが多く、頷けるものが多かった。それだけではない。アメリカでの武者修行で、セルジオ・ペティス選手からその実力を認められ、堀口恭二選手とのBellatorの世界戦にセコンドとして参加、セルジオ選手がBellatorのバンダム級チャンピョンになる瞬間をその現場で体験している。この件から多くの格闘技ファンは改めて、彼は「持っている」と感じたと思う。このように彼自身が行動し、発信することで、世間には絶えず彼の話題があり、さらにそこに運も乗っかることで、次の試合では彼は真のMMAファイターの姿を見せてくれるのではないか、という期待感が醸成されていった。2021年は試合をしていないにも関わらず、このような空気感を作り出せるのは彼が時代の流れを読み(作り?)、それに乗っかる特異な才能があったからであろう。

 

そして、迎えた2022年3月6日のRIZIN LANDMARK Vol.2。相手は立ち技格闘技との二刀流をしている鈴木千裕選手。ストライカー同士の対決である。平本選手の実力がどれだけあがっているか誰もが期待していた。しかし、入場前の映像で一抹の不安がよぎる。平本選手の顔が活き活きしておらず、萩原選手にマウントをとられているときを思い出させるような顔をしていたのである。この不安は半分的中、半分外れる。試合結果としては判定負けだったが、打ち合いに関していえば、最初の打ち合いでは鈴木選手が一発を当てて、あわやダウンという場面があったが、それ以外は平本選手が一枚上手だったように見える。また、試合の最後まであきらめない姿・根性が見れた。しかし、やはりレスリング技術や寝技は鈴木選手が圧倒しており、試合全体を見た場合、鈴木選手に軍配があがるのも仕方のない内容であった。この結果を受け、また改めて大きな失望をするのであるが、同時に改めて大きな期待を抱かせられる(こう考えると本当に平本選手は人の心を動かすのが上手い。。)。それは、彼は、試合直後のマイク、そして試合後インタビューで、顔を真っ赤に腫れあがらせ、悔しい感情を隠さず、自分は負けていない、自分はまだまだこれからであると高らかに宣言したのである。自分の人生はこんなもんかといい意味でも悪い意味でも達観し始め、感情が高ぶることが少ない私のような中年男性に克を入れるような素晴らしいインタビューだったと思う。

 

https://www.youtube.com/watch?v=WeywOcarzHw&t=510s

 

その後、失踪騒動(なお、このことについても少し言いたい。本人は照れ隠しを含めてやったのであろうが、彼の影響力を利用しようとしているのが透けて見える周りの大人の協力者はダサかった。彼を応援する気持ちから協力したという側面もあるのだろうが、応援するのであれば違う形で応援して欲しかった。)を経て、昨日のRIZIN 36に至る。対戦相手は鈴木博昭選手。シュートボクシング出身のストライカーである。直前で朝倉海選手が怪我で欠場し、メインに格上げするところを見ると、やはり彼は持っていると感じさせる。今回は入場のときからRIZIN LANDMARK Vol.2とは違った。リラックスしている様子が見てとれ、また試合中もかなりリラックスしているように見えた。試合の終盤にはカメラに対して舌を見せるというパフォーマンスをする余裕もあり、結果もスプリットの判定ながらも判定勝ちを収めた。しかし、多くの人が指摘するように、試合内容からすると、期待外れ感はあった。平本選手も鈴木選手も立ち技に終始しており、打撃・テイクダウン・寝技を組み合わせた総合格闘技らしい試合ではなかったからである。さはさりながら、平本選手はテイクダウンディフェンスの向上は見られ、体の強そうな鈴木選手からテイクダウンを奪われなかった。少しずつながらも向上していることが分かった。ここで今更ながらやっと気づいたことがある。

 

平本選手は、ビジュアルとその言動から天才肌の格闘家のように見える(本人が見せているのかもしれない)。しかし、その実は逆で、努力型の格闘家なのではないか。試合を重ねるたびに私のようなにわかファンにも分かる成長をしている。その成長は、にわかファンが期待しているような大きな成長ではない。しかし、それでも少しずつ成長している。体つきも2020年から大きく変わった。首も太くなったし、広背筋も大きくなっている。彼がフィジカルにも力を入れいている証拠だ。彼は批判されても歩みを止めない。少しずつであるが、自分の目標に向かって進んでいる。これから彼は勝つこと、負けることを繰り返し、期待され、失望されることを繰り返すだろう。その結果、彼の目標に届くのかどうかは誰も分からない。しかし、一つ言えることは彼は批判を恐れず、愚直に努力し続け、大きく羽ばたくということだ。そして、彼自身が成し遂げられなかったとしても、彼に続く者が現れ、きっといつかは日本人からUFCのチャンピョンになる人物が現れるはずだ。若いうちにこれだけ毀誉褒貶を浴びた経験は、彼を強くし、前に進む力を与えるだろう。彼のような若者の輝かしい未来を期待してやまない。

 

と、ここまで書いていて一人のスポーツ選手を思い出した。本田圭佑選手だ。彼も実力よりも話題先行型と言われ、多くの批判を浴びてきた。彼の強気な発言、そして、重要なところで決める力に多くの人が彼に大きな期待をした。2014年にはその期待は最高潮に達した。2013年の終わりに名門ACミランの10番を背負い、2014年には過去最強と言われる日本代表の主力として戦った。本番が始まる前の練習試合では劇的な逆転勝ちを何度もしてきた。本番は惨敗。大きな期待は大きな失望に変わった。しかし、彼は歩みを止めなかった(し、今も止めていない。)。2018年にはワールドカップのメンバーに選ばれ、初戦のコロンビア戦ではアシストを決め、次戦のセネガル戦ではゴールを、そして、ベルギー戦では終了間際にはあわや同点というフリーキックを放ち、改めて彼の勝負強さを示した。彼の触発された海外を目指した選手は数知れず、2010年のワールドカップのときは国内組がマジョリティだったが、今は海外組しか代表になっていないほどだ。彼は批判を浴びながらも前に進み続け、多くの後進に影響を与えた。平本選手は、まだ本田選手程の年齢ではないし、後進云々を考える前の段階ではない。しかし、批判を浴びながらも自身の美学を持ち、努力を続けるカリスマ性のある努力型のアスリートという点で多くの共通点を感じるし、本田選手のような偉大な選手になるポテンシャルを感じる。

 

平本選手は次戦の相手次第ではまた負けるかもしれない。そのとき多くの人は彼にまた失望し、批判を浴びせるだろう。しかし、彼は止まらず前を歩き続けるだろう。中年のおじさんは陰ながら彼の活躍を見守っていたい。

 

なお、今回の試合後インタビューの今後の予定への回答は大好きだ。今後の予定を聞かれると、UFCをダラダラしながら観るのが楽しみだと答えていた。彼は本当に格闘技が好きなのだろう。努力型の人間がいつか世界の頂点にたつところを私は見てみたい。

 

https://www.youtube.com/watch?v=dKj5lPKo-H4