ビジネスロー・ダイアリー

中年弁護士の独り言兼備忘録

恥をかきたい

恥をかくというのが年々怖くなっている。弁護士を始めた頃は新しい分野の事件も新しい分野も法律も前向きに取り組めていた。さらに遡れば、ロースクールの頃は法律と名の付くものは食わず嫌いをせずに取り組んでいたし、大学生の頃は法律だけではなく、経済学、会計学、果ては民俗学と、いろいろな分野の学問に手を出していた。

 

しかし、世間でアラフォーと言われる年齢になってくると、想像以上に他人の目を気にするようになってしまった。知らない分野の法律が関わる事件があると、弁護士●年目なのにこんなことも知らないの?と思われたくないので、なるべくなら自分からは関わろうとしないし、法律以外の分野が関わる場合はむしろ自分は触らないようにしている。これは、プロフェッショナルの態度としては正しい態度なのだろう。プロフェッショナルに期待されるのは自分の専門分野での価値提供であり、そのために可能な限り効率的に仕事をすべきである。自分の専門分野以外は当然時間もかかるので効率的な仕事はできないし(クライアントに必要以上にチャージしてしまうことになる)、専門分野以外に手を出してミスをした日には目も当てられない。

 

が、本当にそれでいいのかな?と最近よく思う。プロフェッショナル論を盾にして楽をしようとしている自分、新しい勉強を億劫に思っている自分がいることは否定できない。私の事務所は数年ぶりに新人弁護士を2名採用した。彼・彼女の輝かしい瞳がこの気持ちに拍車をかけるのだろう。彼・彼女の瞳が「本当にそれでいいの?」と訴えてくるのだ(被害妄想)。

 

新人弁護士は本当によく勉強している。驚くべきことは、近頃の若い子は、法律の勉強だけではなく、Web 3・メタバース・ブロックチェーンといった法律以外の分野にも臆せず飛び込んでいる。ただ、彼・彼女は当然だがよく間違える。よく指摘される。しかし、こちらが感心する程のスピードで成長している。間違えることを過度に恐れず、高速にPDCAサイクルを回しているのだ。彼・彼女の姿を見ていると、自分ももっと挑戦しなければいけないのではないか、そして、自分も失敗を恐れずチャレンジをすればもう一皮剥けるのではないか、という気持ちが湧いてくる。

 

とはいえプロフェッショナルサービスを提供するものとして、下手に専門分野を広げると痛い目にあうし、まして自分の専門分野についても未熟であることは重々承知しているので、まずはそちらを深堀りすることを優先したい気持ちがある。どうしようかと思案していたところ、新人弁護から国選弁護の相談を受けた。私が国選弁護を担当したのは遠い昔のことなので、何もかも忘れていた。私も一緒になってあれこれ調べて、新人弁護士は結局不起訴に持ち込むことに成功した!この経験が私の心に火をつけた。そういえば、自分が弁護士としてしたかったことは、社会正義の実現とか、弱者救済とか、法の下の平等の実現とか、青臭いものだった。今はいっちょまえに企業法務弁護士です、という顔をしているけれども(誤解を恐れずに補足するが、この仕事はとてもおもしろいし、誇りをもって仕事をしている。)、その薄い皮の下には青臭い気持ちが未だあることを知った。それを失敗したくない、億劫という気持ちで後回しにしていた。ということで、今年の目標を決めた。国選弁護を久しぶりに(十数年ぶり?)担当する。

 

たくさん間違って、「登録●年目の弁護士のくせに…」と白い目で見られるだろう。もしかしたら、被疑者は「頼りない人が来てしまった」と思うかもしれない。しかし、国選弁護であれば、自分がこの分野の素人であることを白状すれば、優秀な裁判官、検察官の方が(内心では私の手慣れなさを心底嘆いていると思うが)サポートしてくれるはずだし、私の弁護士の友人も力になってくれるはずだ。

 

週が明けたら、弁護士会に電話して、名簿に載せてもらおう。本当は歌もダンスもゴルフもテニスも乗馬もトライしてみたいのだが流石にそれは少し引け目があるので(笑)、まずは刑事弁護から始めてみようと思ったアラフォーの春。