ビジネスロー・ダイアリー

中年弁護士の独り言兼備忘録

3D Investmentの富士ソフトに対する臨時株主総会の請求に関する法的論点について思いつくままに書く

 

はじめに

最近はどこもかしこも株主アクティビズムが溢れかえっている。直近では、9月1日に、富士ソフトが3D Investment(「3D」)から臨時株主総会の招集請求を受けたとの開示がなされた。この臨時株主総会の目的は社外取締役4名の追加選任のようだ。読者諸兄にどこまでインサイトを与えられるか分からないが、今日はこの株主提案に関する法的論点について思いつくままに筆を進めてみたい。なお、富士ソフトのプレスリリースはこちら。

www.fsi.co.jp

現段階での論点:臨時株主総会の招集請求

まず最初の論点は臨時株主総会の招集請求の可否であろう。会社法上、臨時株主総会の招集請求のハードルは思ったよりも低い。基本的には、議決権の3%以上の議決権を請求の6か月前から保有していれば、株主は臨時株主総会の招集請求をすることができる。もちろん上場会社の議決権を3%以上保有することは個人では到底不可能な金額であるが、機関投資家等であれば十分集められる金額であろう。また、大量保有報告書の提出義務は株券等保有割合が5%以上であることを考えても、この基準が高いとはいえないように思う。

(株主による招集の請求)

第二百九十七条 総株主の議決権の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。)及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができる。

 

さて、3Dは当然この条件を満たしており、3Dの臨時株主総会の招集請求が法的に認められない、との判断に至る可能性は低いだろう。これが

今後の論点

考えられる主な法的論点

さて、晴れて臨時株主総会の招集請求が認められた場合、どのように案件が発展し、それに伴う法的論点は何だろうか。思いつくままに法的論点を挙げると、以下のとおりになる。

①各種会社資料の閲覧謄写請求

②臨時株主総会の招集決定

③総会検査役の選任

④委任状争奪戦

⑤株主総会運営

⑥株主総会決議の取り消し等の訴え

①各種会社資料の閲覧謄写請求

まずは、株主側から株主名簿閲覧謄写請求、議事録の閲覧謄写請求及び/又は会計帳簿の閲覧謄写請求を含む、会社資料の閲覧謄写請求がなされるであろう。法令上、このような閲覧謄写請求が認められない場合は規定されており、ギリギリの案件では、ここも大きな法的論点になる。しかし、開示資料によると、3Dと会社側は緊密に連絡をとっているようであり、また、今回の臨時株主総会の招集請求の目的は社外取締役選任を目的としているので、株主名簿閲覧謄写請求を除き、3D側の確認が必要な資料は少なそうだ。したがって、本件ではこの点は大きな争点にはならないで終わりそうだ。

②臨時株主総会の招集決定

株主総会前の論点の一つとして臨時株主総会の招集決定について挙げたい。上述のとおり株主は臨時株主総会の招集請求をすることができるが、これはあくまで請求であり、この請求により自動的に臨時株主総会が開催されるわけではない。この請求を受け、取締役会が臨時株主総会の開催を決定するか、取締役会が開催を決定しない場合、株主が裁判所の許可を得て株主総会の開催する必要がある。

法的にはここは少し面白い論点で、実務的には株主総会の開催請求を受けた会社は、必ず自ら株主総会の開催を決定をする。その理由は、株主が裁判所の許可を得て株主総会を開催してしまうと、株主側が株主総会の議長を選任することができなど、株主総会運営のイニシアチブを株主側に握られてしまうからだ。これを避けるため、会社側は自ら株主総会の開催を決定するのだ。

更に実務的な話をすると、会社側としては臨時株主総会開催までの時間を確保するため、おいそれと臨時株主総会の開催を決定をしない。通常は、株主は一定期間を経過すると臨時株主総会開催に関する許可を裁判所に申し立てるのであるが、それの申し立てを受けて会社側は臨時株主総会開催を決定するのである。

タイミングはどこになるか分からないものの、今回も富士ソフトの取締役会は臨時株主総会の開催を決定するであろう。

③総会検査役の選任

こうして会社側で臨時株主総会の開催が決定されると、会社側が株主総会の運営のイニシアチブを握ることになる。株主側としては、不正な議事運営をされたらたまったものではないので総会検査役を選任を裁判所に申し立てることになる。

総会検査役の役割はあくまで株主総会の運営に関する記録をとるという点にあり、不正を発見し、その不正を正すという役割までは担っていない。法律の建付けとしては、仮に不正があった場合は検査役の記録に残っているので、その記録を使い、裁判所で株主総会決議の取消し等を争うということになっている。

しかし、実務的には検査役が選任されると、総会の運営方法について、検査役、会社、株主の三者で事前に協議されることになる。もちろん株主総会の運営権は会社が握っており、最終的には会社側が判断するが、上記の三者間協議により、一定程度株主の意見が反映され、双方が納得するような総会運営方法が形作られていく。したがって、検査役には株主総会運営を公正なものとする役割は担っていないが、結果的には、双方が納得する「公正」な総会運営がなされることが多い。

④委任状争奪戦

委任状争奪戦と聞くと、要するに選挙活動であるので法的論点は少ないように思われるが、実はここにも法的論点は複数存在するのだ。

まずは形式面だ。上場会社における委任状勧誘には、上場株式の議決権の代理行使の勧誘に関する内閣府令(「勧誘府令」)というたいそうな名前がついた法令が適用される。勧誘府令には委任状に定めるべき内容等が規定されており、委任状はこれに則って作成される必要がある。したがって、委任状作成者は勧誘府令に十分留意して作成する必要があるのだ。

委任状関連で一番重要な論点は、どのような委任状を有効・無効とするかだ。例えば、委任状に署名を依頼したのに無署名で返送された場合、会社側にも株主側にも委任状を送付した場合、本人確認書類に不備がある場合と、実際に株主から返送される委任状には様々なバリエーションがあり得る。このそれぞれの場合につき、どのような基準で有効・無効を判断するか事前に決めておく必要がある。この有効・無効の判断については法令上明確な定めがなく、総会検査役、会社、株主の三者間協議で判断基準を定めることになるのであるが、この点は票数に直結する論点であり、かつ、正解がない世界であるので、弁護士の腕の見せ所だ(大抵、大の大人がムキになって喧嘩する。チーン。。)。

⑤株主総会運営

株主総会運営は皆さんご存知のとおり論点はあまりに多岐にわたるため、票数に関係する2点だけ触れることにする。

まずは当日の本人確認方法だ。この本人確認方法も正解が基本的にはない世界であり、総会検査役、会社、株主の三者間協議で判断基準を定めることになる。しかし、本人確認方法で大きく揉めることは少なく、基本的には株式懇話会が公表している株主本人確認指針に則ったものとなることが多いように思う。

もう一つ、そして最も重要なのは票数のカウント方法だ。これは、委任状の有効性に関連する論点と同じくらい重要な論点だ。例えば、選任に賛成の取締役候補だけ〇を付けてくださいとの指示にもかかわらず、×や△をつけている場合、白紙の場合、委任状とは異なる投票をした場合と、委任状の場合と同様、実際の投票に使われる投票用紙には様々なバリエーションがあり得るのだ。このカウント方法も総会検査役、会社、株主の三者間協議で判断基準を定めるため、弁護士の腕が試されるところであろう。

⑥株主総会決議の取消し等の訴え

やっと株主総会が終わったとしても、主に株主側から、株主総会決議の取消し等の訴えがなされる可能性がある。すなわち、株主総会運営方法について、三者間協議で合意ができない場合がある。そのような場合、株主総会の運営権限は会社が握っているため、会社が公正と考える株主総会運営をすることになるが、これに対して株主が異議を申し立てるという構図だ。また、別の例としては、株主側が票読みで勝っていたのに負けた場合、株主が不正を疑い、株主総会が不公正であるとして株主総会決議の取消し等の訴えを株主が提起することになる。

最終的にはこの訴訟で決着が着くことになる。

最近の事例では、関西スーパーの事例がこれに該当するだろう。関西スーパーの事例は法律家としては血沸き肉躍る(?)論点てんこ盛りな案件なので、いつかきちんと検討したい。

終わりに

3Dの臨時株主総会の招集請求をきっかけに、関連する法的論点を思いつくままに書いてみた。このエントリーでもわかると思うが、単純な株主アクティビズムでも法的論点は多岐にわたり、これをおろそかにすることはできない。

しかし、実務的な感覚すると、法的論点は法的論点であり、これで何かが決まるわけではない。株主総会の結論に最も左右するのは、当然ながら票数だ。票数で負けているにも関わらず、法的論点で勝って、結論が逆転することは実務的にはまずないであろう。したがって、株主アクティビズムは法的論点を粛々とつぶしていくことも重要だが、やはり最も重要なのは有体にいってしまえば多数派工作であろう。通常時における株主との対話、有事における機関投資家への挨拶周りはもちろんのこと、議決権行使助言会社に対するアプローチも欠かしてはならない。当然であるが、塵も積もれば山となるので、個人投資家へのアプローチ方法(これに動員される弁護士は灰になる)も考える必要がある。

実は3Dは2022年3月11日に自らが開催請求をした臨時株主総会で、社外取締役の追加選任を試み、40%の賛成しか得られず負けている。今回改めて臨時株主総会を請求したのは、票読みが変わったからなのか、その他の理由があるからなのか、詳細は不明であるが、今後の展開に注目したい。

なお、株主がよりドラスティックに行動し、会社の支配権を取り来た場合については、買収防衛の論点になる。買収防衛についてはこちらのエントリーで少し書いているので、興味のある方は参考にされたい(見てください!!!)。

 

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