ビジネスロー・ダイアリー

中年弁護士の独り言兼備忘録

AI時代の法律業界?

はじめに

 

AIの進化には驚かされる。GPT3からGPT4の進化は非連続的なものを感じざるを得ない。私は法律家なので気になるのはやはりBar Examの正答率だ。米国の全州統一の司法試験の結果について見ると、GPT3.5では213/400のところ、GPT4では298/400となったようだ。これはどうやらTop 10%の結果らしい。

 

日本の旧司法試験を解かせてみたというツイートを見かけた。結果としては、まだまだといった印象を受けたが、時間の問題であることは明らかだ。日本の司法試験の結果がふるわなかったのはGPT4がアクセスできる日本の法律の情報量が十分でなかったからであろう。

 

法律問題を解決しようとするとき、日本の弁護士の誰もが条文を見て、紙の本を見る。これが弁護士の基本動作だろう。しかし、私が米国で研修した事務所ではこのような動きをする弁護士はほとんどいなかった。大手判例検索会社が法律情報を体系だって説明したあんちょこを用意しており、彼らは法律問題を解決するためのそのあんちょこを見る。Open AIがこの情報にどこまでアクセスできたかは不明であるが、このような情報に仮にアクセスできたとしたのであれば、米国の司法試験でもTop 10%の結果が出せるのも頷ける。

 

権利関係の処理が難しいであろうが、例えば、Legal LibraryとOpen AIが競業したら、日本の司法試験も解けるようになる日は近いであろう。

 

AI時代の法律業界のストーリーその1ー中小事務所の躍進?

 

弁護士業界のGame Changeの日が近づいているのをひしひしと感じる。

 

ストレートに考えると、中小法律事務所はチャンスの時代が到来しているように思える。大型M&A(それに伴うLDD)、不祥事対応、米国訴訟対応、大型倒産事件、これらの案件は多くのマンパワーが必要とされ、主に四大と言われているような大規模事務所でしか対応できなかった。そして、これらの大型案件が大規模事務所の収益の柱となっており、彼らの地位を盤石にしていた。しかし、数年後はAIを駆使すれば、中小規模でも大型案件を取り組める時代が来るだろう。参入障壁が高かった大型案件の参入障壁がぐっと下がり、ここの競争は激しくなるはずだ。

 

他方、大規模事務所は、多くの人を雇っており、これまでの規模・収益を維持できるかは大きな疑問符が付く。いわば独占していた大型案件は中小規模の事務所にシェアを一定程度は奪われてしまうであろう。また、大量の文書のレビュー、基本的なドキュメンテーションの多くはAIが代替すると思われるので、(レビューという作業は人間に残るものの)タイムチャージという請求方式をとっている限り、これまでのような金額感のリーガル・フィーを請求することはできないであろう。さらに、高額の賃料・バックオフィス人材に対する人件費等の間接費は、中小規模の事務所と比較して、相当程度大きいはずだ。そのようなことを考えると、大規模事務所の将来は暗いものと言わざるを得ない。

 

AI時代の法律業界のストーリーその2ー大規模事務所の寡占化?

 

しかし、本当にそうなのだろうか、とも思う。秘密情報の問題等を考えると、今後は汎用的な法律専門AIをベースを各事務所が導入した後は、各事務所が自らのAIをカスタマイズしていくのではないのだろうか?これが正だとすると、事務所が保有するAIの質は事務所に所属する弁護士の質と案件の数に左右されることとなる。そうなると、弁護士と案件の質・量を考えると、大規模事務所にやはり一日の長があり、大規模事務所が保有するAIの質が他の事務所が保有するAIの質を圧倒するかもしれない。

 

このストーリーの場合、ある種勝負あったで、逆に中小事務所はかなり厳しい立場に立たされる。大規模事務所は安価で良質のサービスを大量に提供でき、それがゆえにさらにAIの質が向上し、さらに安価かつ良質なサービスが提供できるようになる。いわばネットワーク効果が働いている状態だ。大規模事務所が今まで取りこぼしていたいわゆる細かい案件も対応できるようになり、中小事務所を駆逐するという将来像も考えられる。

 

AI時代のために何をすべきか?

 

だが将来は誰にもわからない。私が予想した未来以外のストーリーもあるはずだ。法律事務所はこのような不明確な時代をどのように生き残っていけばいいのであろうか?

 

どうやらAIと弁護士が協同することは間違いない。これまでは法律事務所のKSFは弁護士の質と考えられていたが、どうやらこれからは弁護士「と」AIの質になりそうなことは間違いない。したがって、私であれば、一刻も早くAIを導入し、1秒でも早くAIの教育にいそしむだろう。AIを上手に教育するには、法律家だけでは足りない、AIの仕組みを分かっているプロフェッショナルが必要だ。したがって、IT人材も雇い、弁護士と一緒に自社のAIを強化する体制を整える。

 

またタイムチャージ制の撤廃も重要なイシューだろう。丁寧に、だが、可能な限り迅速に、タイムチャージ制を撤廃し、AIに対する投資も回収できるようなフィー体系に変更する。タイムチャージ制を維持している限り、右肩下がりは避けられない。まずは赤字覚悟で、fixed feeに変更するのはどうだろう?Fixed feeであれば、かけた時間ではなく、数で売り上げを作ることができる。優秀なAIがあれば、数をこなすことは簡単なはずだ。それか、弁護士のタイムチャージだけでなく、AIの使用量も請求するスタイルにする。案件に関連して、AIに読み込ませた情報量及び出力した情報量をそれぞれ請求するのだ。これであれば、大型案件での高額なリーガル・フィーを正当化できるし、依頼者としても納得感があるかもしれない。

 

世の中の仕組みがガラッと変わるので、法律事務所もガラッと変わる必要がある。この変化に取り残される法律事務所から淘汰されていくのだろう。時代の流れに淘汰されないように常に柔軟性を持っていたい。