ビジネスロー・ダイアリー

中年弁護士の独り言兼備忘録

13兆円の損害賠償の行方 - 東電旧経営陣が負う経営責任②

昨日のエントリーの続き:

 

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まずは3.取締役会の決議に基づく責任の一部免除について検討したい。これは定款に「取締役会の決議がある場合には取締役の責任を一部免除できる」との規定がある場合に、取締役会の決議により取締役の責任の一部を免除するものである。そこで、まずは東電の定款にそのような規程があるかというと、、、

(取締役の責任免除)第29

本会社は,会社法第 426 条第 1 項の規定により,取締役が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がない場合は,取締役会の決議によって,その取締役の同法第 423 条第 1 項の責任を法令の限度において免除することができる。

引用:https://www.tepco.co.jp/about/ir/management/pdf/teikan-j.pdf

 

このように定款の規定はあるため、第一の要件はクリアしている。次のハードルとして、旧経営陣が福島第一原発の事故に関して「善意でかつ重大な過失がない」必要がある。すなわち、過失はあるものの、その程度が低い(例えば、福島第一原発の事故の予見は通常の経営者であれば可能であったが、対策を講じるまでの時間的制約があり、予見が可能となってから事故発生までに対策を講じるのは(不可能ではないものの)実務上は困難であるような場合が考えられるだろうか?)場合にのみ、このハードルをクリアできる。

今回の東京地裁の判決全文についてはアクセスできていないが、報道によると、「原子力事業者に求められている安全意識や責任感が根本的に欠如していたと言わざるを得ない」と旧経営陣の態度を厳しく非難しているようである。このことからすると、東京地裁の判決をベースにすると、過失の程度が低いと結論付けるのが難しいかもしれない。

更なるハードルとして、会社法上、この規定に基づき免除をした場合はその事実を公告する必要があり(会社法426条3項)、総株主の議決権の100分の3以上の株主が異議を申し立てた場合、かかる免除は行えないこととなっている(会社法426条7項)。したがって、取締役会の決議でいわば秘密裏に事を進めることをできず、結局は株主から反対されて免除ができなくなる可能性がある。

以上を総合すると、この方法は定款には規定があるものの、なかなかにハードルが高いことが分かる。。

今日はこの辺りで。明日は5.の方法について検討したい。

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