ビジネスロー・ダイアリー

中年弁護士の独り言兼備忘録

村上ファンドvsジャフコの行く末 - 近時の有事の買収防衛策に関する裁判例を踏まえて

はじめに

いわゆる村上ファンド系列のファンドである株式会社南青山不動産及び株式会社シティインデックスイレブンスの大規模買付等行為に対して、ジャフコグループ株式会社は有事の買収防衛策の導入を決定した。今日は本件についてこれまでの裁判例の傾向を踏まえて、今後の帰趨を占ってみたい。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/8595/tdnet/2174167/00.pdf

近年の買収防衛策の潮流

2020年以降、顕著に買収防衛策の是非を問う事案が急増している。著名事件でいうと、村上ファンドと東芝機械(現芝浦機械)の案件、SBI銀行と新生銀行の案件、関西スーパーに関連する案件と、ファンドが敵対的買収又は株主アクティビズムを仕掛ける案件から事業会社が敵対的買収を仕掛ける案件までその案件は多種多様にわたる。このような案件の中でブルドックソース事件以来となる有事の買収防衛策も多用されてきたが、これについては裁判例がここにきて急速に積みあがってきており、判断枠組みはある程度固まりつつあった。そこで、まずは典型的な有事の買収防衛策及びそれに対する裁判所の判断枠組みについて見ていきたい。以下では筆者の余力との関係上、誤解を恐れずにごく簡単にまとめている。そのため、一部誤解を招く表現が不正確な表現が含まれている可能性がある。もし気づいた点があったら、どんどんコメントして欲しい。

典型的な買収防衛策

典型的な有事の買収防衛策は大要以下のとおりである。

①大規模買付者による大規模買付行為等趣旨説明書の提出

②株主に対する情報提供

③取締役会による大規模買付行為の評価

④株主意思確認総会の開催

⑤(④で多数の株主が賛成した場合)以下の内容を含む新株予約権の株主に対する無償割当て

 (a)新株予約権の行使:行使価格1円として新株予約権1個に対して対象会社の普通株式●株を付与する。ただし、大規模買付者は行使不可。

 (b)新株予約権の取得条項:取締役会の決定により、対象会社は、新株予約権1個に対して対象会社の普通株式●株を対価として新株予約権を取得することができる。なお、大規模買付者が保有する新株予約権については、大規模買付者が大規模買付を撤回した後等にのみ行使でき、かつ、行使後取締役会が定める範囲内においてのみ行使することができる「別の」新株予約権を対価として取得。

有事の買収防衛の手法は実務的には固まっている面があり、実際のプレスリリースを見てみるとコピペで作ったのではないかと勘繰る程同じような表現となっている(なお、近時、買収防衛側の依頼は特定の法律事務所に集中しており、かかる法律事務所が作成したプレスリリースとなるため、同じような表現になっているという側面はあろう)。

裁判所の判断枠組み

このような有事の買収防衛策に対して、裁判所は大要以下のような判断枠組みをとっている。

①有事の買収防衛策は経営陣の経営支配権維持目的が推測されるため原則として認められない(法律的な言葉でいうと「著しく不公正な発行」に該当する)

②しかし、株主共同の利益に資する場合、買収防衛策の必要性及びその相当性が認められるときに限り、有事の買収防衛策が許容される。

この具体的な当てはめについて、直近までは、株主の多数が賛成していれば、裁判所は例外的に有事の買収防衛策を認めてくれるというのが、実務家の認識だったように思う。すなわち、各裁判例について、裁判所は必要性及び相当性を認定しているが、結局は株主の多数が買収防衛策を賛成していることを錦の御旗にして買収防衛策を認めているのでは、という印象を受けていた。この印象を決定づけたのは東京機械製作所が導入した有事の買収防衛策に関する裁判例であろう。この件は、アクティビスト側が既に40%近くの議決権を保有していた案件であったが、かかるアクティビストを「除く」株主の多数が買収防衛策に賛成していることを理由に買収防衛策(新株予約権の無償割当て)を実施し、これを裁判所が追認したのである。

これらの裁判例を踏まえ、株主の多数が賛成しているのであれば有事の買収防衛策も認められるというのが多くの実務家の感覚ではなかっただろうか。しかし、今年の7月頃になって潮目が少し変わってきた。三ツ星が有事に導入した買収防衛策が、株主の多数が賛成したにもかかわらず、裁判所に認められなかったのである。

筆者が見る限り、三ツ星が導入した買収防衛策と他の事案の買収防衛策に差がないように思う。(筆者個人の推測として、裁判所が東京機械製作所の案件は「ちょっとやり過ぎたかも」と反省したのも少なからず影響しているように思うが、、、、)他の裁判例と三ツ星の件の結論を分けた点としては、大規模買付者の撤回手段が確保されていないことが挙げられる。すなわち、裁判所は買収防衛策の相当性として、大規模買付者の利益保護についても検討する。この文脈において、大規模買付者による大規模買付の撤回の可否が重要になるのであるが、三ツ星の案件では、大規模買付行為が撤回されたというためには、大規模買付行為等を行わないことや、当面の間、株主提案や臨時株主総会の招集請求権等の株主権を行使せず、経営支配権を奪取する行為を行わないことを誓約する誓約書の提出を対象会社は求めたらしい。これが裁判所の逆鱗に触れたのか、裁判所は、(株主の多数は買収防衛策の導入に賛成しているため買収防衛策の必要性は認められるものの)大規模買付者の利益保護が十分ではなく相当性に欠ける、と判断した。これが三ツ星の裁判例をエクストリームにまとめた内容となろう。

正直なところ、撤回において上記の内容を求めたのは、三ツ星側の大きなミスとしか言いようがない。。「今回の」大規模買付行為は株主の多数が「否」をつきつけたため、大規模買付者はひっこめざるを得ないし、それをひっこめることを求めるのは合理的であるものの(株主共同の利益に資する)、「将来の」大規模買付行為や他の株主権の行使まで制限されるいわれは全くないはずである。それを封じてしまうような撤回条件をつきつけたのは明らかに「やり過ぎ」であるし、経営支配権維持目的が見てとれ、このような撤回条件が株主共同の利益に資するとはいえないだろう。。

このような三ツ星側のミスがなければ、これまでの案件同様、株主の多数が買収防衛策を支持していることを錦の御旗にして、買収防衛策(新株予約権の無償割当て)の実施が認められていたのではないか、というのが筆者の見立てだ。

ジャフコの案件の帰趨

さて、上記を踏まえてジャフコの案件の帰趨について考えてみる。村上ファンドがジャフコの株式の過半数を取得するとジャフコが投資する多くのスタートアップが間接的に村上ファンドの影響を受ける可能性があるため、大きな話題となっているものの、ジャフコが導入した買収防衛策はごく一般的なものである。未だ法廷闘争には至ってないようであるが、仮に裁判所にこの案件が持ち込まれた場合、これまでの裁判所の判断と同じ枠組みで判断されることになろう。

その場合、最も重要な判断要素はやはりこれまで通り、株主の多数が買収防衛策に賛成するか否かだろう。世間的にはジャフコが優勢のような機運があるため、買収防衛策に株主の多数が賛成する可能性が十分にある。今回ジャフコを代理している法律事務所は東芝機械の案件等を担当した経験豊富な法律事務所と推測されるので(プレスリリースが東芝機械のものとほとんど同じである)、三ツ星の案件のようなミスは犯さないように考えられる。したがって、本件では、買収防衛策が認められる可能性が高いといえよう。

また、開示資料によると、村上ファンドは既にジャフコの株式を15%以上保有していることからすると、(またこの案件が東京機械製作所と同じ法律事務所が担当していると推測されることからすると)事前の票読み次第では、村上ファンドを除く株主の多数(いわゆるマジョリティ・オブ・マイノリティ)が買収防衛策に賛成していることをもって買収防衛策を実施する可能性もある。そうなると、東京機械製作所の案件の境界線が明確になる法律的には更に興味深い案件になるだろう。

北関東の弁護士の(どうでもいい)雑感

このような買収防衛策の案件を分析をしていると、私のような北関東の弁護士からすると、全く別次元の時間軸で案件が動いていることが分かり、関係各位の働きぶりに敬意を示さずにはいられない。特に開示資料、会社関係書類、各種契約書を作成する弁護士の負担は相当なものと推測される。このような時間的・体力的・精神的・法律面を含む全ての面がハードな案件をハンドルできるからこその四大弁護士事務所であり、少しやっかみを覚えるととともに、四大法律事務所所属の友人の優秀さを考えると「さはさりなん」という感じはある。私はこのような華々しい案件は扱っていないが、優秀な友人が頑張っていることに刺激を受け、担当している案件に誠心誠意取り組みたいと思う。