ビジネスロー・ダイアリー

中年弁護士の独り言兼備忘録

公正な買収の在り方に関する研究会が公表した指針原案の雑感-Majority of Minorityが許される場面の整理

 

はじめに

 

GWが終わるので久しぶりの投稿をしたい。GWも体感としては一瞬で終わってしまったが、普段はできないインプットができて個人的には満足のいく休暇だった。今回はGW期間中に読んだ公正な買収の在り方に関する研究会が発表した指針原案(第8回研究会での議論用)の雑感を書いてみたい。

 

なお、ご存知のとおりであるが、公正な買収の在り方に関する研究会は各回で使われた資料や議事録を公表している。気になる方がいれば是非原本もご覧いただきたい。

www.meti.go.jp

 

前提

 

まずは前提として、公正な買収の在り方に関する研究会の研究対象を説明したい。各回で対象となる主題が少しずれているようにも思えるが、有体に言ってしまえば、いわゆる敵対的買収(研究会で使われている言葉を使えば「同意なき買収」)を仕掛けられた場合の取締役(会)の行動指針とまとめられるだろう。その外延は実は不明確であるが(例えば、取締役の選解任を通じて実質的に対象会社を支配する場合もある)、主な対象は同意なき「買収」がされた場面と考えてよいだろう。

 

さて、記載内容については、今までの裁判例を踏まえたものであり、特段目新しい物はないといったものである。実務家からしたら、「まぁそうだよね」というものをまとめているという印象であるが、このような形でまとまった資料があること自体に価値があると思う。ただ、実務家が最も気になっており、今後最も争点になると思われる論点である”Majority of Minorityの株主総会”がどのような場合に許されるのか、という点に回答や指針が出されなそうであるのは少し残念であった。

 

同意なき買収に対する買収防衛の総論

 

この議論の前提として、どのような場合に同意なき買収に対する防衛が許されるのか?という点について説明する。細かい法律的な議論はおいておくと、要するに防衛をする「必要性」と「相当性」が認められる場合に防衛が許されると考えられている。

 

この「必要性」と「相当性」の考慮要素として最も大事なものは、「必要性」については株主総会での承認、「相当性」については買収者に対する損害軽減の可能性が担保されていることだ。

 

まずは「相当性」について簡単に補足すると、現在実務上使われている新株予約権無償割当スキームを利用すれば多くの場合で「相当性」は認められるだろう。なぜならば、現在実務上使われている新株予約権無償割当スキームによれば、買収者に対して第二新株予約権が交付され、かかる第二新株予約権は株式保有割合が一定割合以下になった場合に会社が買い取るというスキームとなっている。すなわち、買収防衛策が発動された場合は、一定の割合を超える部分の株式については金銭で返還されるという仕組みになっているのだ。ただし、例外として、三ツ星事件のように新株予約権無償割当スキームを利用しても買収者が実質上損害を軽減できない場合は「相当性」は認められないので注意されたい。

 

「必要性」が認められるMajority of Minority

 

次に「必要性」については株主総会の承認が最も重要な要素である。ここに冒頭で記載したMajority of Minorityの議論が関係してくる。通常は買収者を含めた株主を考慮した上で承認の可否を決めるが、東京機械製作所の判例をベースにすると、買収者を考慮しない形での株主総会承認でも「必要性」が認められる可能性がある。実務家としてはこの点が最も気になる点であった。

 

この点について、一定の指針を出すことを期待していたが、残念ながらこの点の指針は出されないようである。

 

現在公表されている指針はあくまでドラフトであり、研究会の議論を経てアップデートされていく。逆に言うと、指針原案を追っていけばどのような議論がなされているかある程度追えるのである。特に今回は前回からのアップデート部分が示された指針も公表されているので、その点を見ると実に興味深い。

 

実は前回公表された指針原案を見ると、この点についても一定の指針を示すことを目指していることが分かる。しかし、今回公表された指針原案ではその点がばっさり落とされ、すっきりとした記載になっている。興味がある方は是非指針原案の49、50頁をご覧いただきたい。

 

東京機械製作所の事件では、買収者の市場内買付けによって株主に対して強圧性が発生していたこと、買収者が大量保有報告書の提出を故意に遅延していることを理由として、買収者を除いた株主総会承認を正当化していた。しかし、市場内での株式売買には一種の強圧性はつきものであり、この件でそれを取り立てて問題視することには違和感がある。大量保有報告書の問題についても、本来的には大量保有報告書規制の文脈で解決すべきである。最高裁の理由付けはこの点から説得力が十分にあるとはいえず、どうしても結論ありき(この部分は闇が深いので調べたい読書は独自で調べて欲しい)の超法規的な解釈に思えてならない。

 

経産省が大々的にMajority of Minorityが許される場合の整理を諦めたことからも、東京機械製作所の判決を一般化する形で正当化することは難しいことが見て取れるように思える。

 

したがって、実務家としてはやはりMajority of Minorityは基本的に認められない、東京機械製作所の判例は事例判決であり、たとえ同様な事例だとしてもMajority of Minorityが認められる可能性は低いと言わざるを得ない、といった態度で臨まざるを得ないように思う。

JIPによる東芝に対する公開買付けに関する契約の雑感①

はじめに

このブログでも紹介した東芝の非公開化の案件がついに一段落がついたようだ。これまでの報道からはJIPと政府系ファンドのJIC(正確にはその子会社のJICキャピタル)が争っていたようであるが、最終的にはJIPがスポンサーとなることで幕引きとなった。ここに至るまでの様々な憶測や報道からすると、本件は、二転三転・四転五転したようであり、関係者各位には心からの敬意を示したい。

 

さて、今日はJIPの東芝に対する公開買付け(「本公開買付け」)をリーガルの観点から少し解説してみたい。特に、開示資料を見ると、JIPと東芝は「本公開買付契約」なる契約を締結したことが分かり、開示資料から分かるこの契約の輪郭を説明したい。

 

本公開買付けの予告プレスはこちらから

https://www.global.toshiba/content/dam/toshiba/jp/ir/corporate/news/20230323_1.pdf

 

公開買付の予告プレス

 

まずは前提として、3月24日に開示された上記の資料は、公開買付けの開始を開示したものではなく、公開買付けの開始を「予告」するものだ。これは「予告プレス」と呼ばれており、法律上の位置づけは少しトリッキーなので、まずはこの予告プレスについて簡単に説明したい。

 

法令上、公開買付けの「開始」については開示が強制されているものの、公開買付けの「予告」については開示は強制されていない(※)。では、なぜこのような開示をするのかというと、独禁法等の対応のため多くの関係者を巻き込む必要がある場合、少数のディール部隊では対応できないので、公開買付けの「予告」を開示し、いわばディールを公にすることで多くの関係者を巻き込むためと一般的には言われている。

 

このように、一定規模以上の公開買付けにはおいて、独禁法等の規制法が絡むことが多いため、近年は「予告」プレスがする例も増えていると感じられる。例えば、KKRの日立物流に対する公開買付けにおいても「予告プレス」がなされている。

 

(※)なお、一般論として、「公開買付けの予告」が開示対象となっていないということを強調したかったため、このような書き方をしているが、本件で締結された「本公開買付契約」は、金商法及び東証規則のキャッチオール条項に該当するのは明らかであり、東芝からすると法令上の開示は必須と思われる。例えば、ベインの日立金属に対する公開買付けにおいては、ベインサイドは「予告」プレスはしていないが、日立金属は対象者の意見表明の「予告」プレスを行っている。これはベインサイドは上場会社でないため開示が強制されず、他方で日立金属は上場会社でありキャッチオール等による開示が強制されるため、このようなアンバランスな開示になったと思われる。

 

本公開買付契約

 

さて、本題の本公開買付契約についてだ。プレスから分かるのは以下の条項である。

1.概要

2.前提条件

3.表明保証

4.取引保護条項

5.その他

 

これらについて一つずつ見て、私の雑感を述べたいと思う。

 

1.概要

 

まずは概要、すなわちこの契約の主たる義務内容・目的について見ていきたい。

 

結論からすると、東芝がJIPに対して公開買付けを義務付けることが本公開買付契約の目的と考えられる。予告プレスの該当部分は以下のとおりだ。

 

本公開買付前提条件が成就していること(又は公開買付者が対象者との合意若しくは公開買付者の裁量により本公開買付前提条件を放棄していること)を条件として公開 買付者が本公開買付けを実施すること

 

このような公開買付けを義務付ける契約が締結されるのが一般的か?と問われると、ケースバイケースと答えようがない。ここはほかの実務家の意見も聞きたいところだ。ただ、冒頭で説明したとおり、独禁法等のクリアランスが問題にならない(=公開買付期間中に取得できる見込みが高い)案件ではこのような契約は締結されず、一気阿世に公開買付けを開始してしまうことが多いと思われ、そうではない案件ではこのような契約が締結されると思われる。

 

例えば、KKRによる日立物流に対する公開買付けにおいても、ベインによる日立金属に対する公開買付けにおいても、クリアランスが問題となる事例であるが、これらの案件でも、それぞれ「本基本契約等」・「本不応募契約」という契約の中でベインの公開買付けの開始の前提条件に関する合意をしているようである。以下、参考までに該当部分を転記する。

 

KKR→日立物流

なお、本基本契約において、本公開買付けの条件に係る事項、本公開買付前提条件、…競争法上のクリアランス取得に向けた努力義務、…従前の慣行に従った通常の業務の範囲内においてその業務を行うことに係 る努力義務、…等を合意しております。

 

ベイン→日立金属

本不応募契約において、本公開買付開始前提条件、公開買付者及び日立製作所に よる表明保証事項(注)、競争法上のクリアランス取得に向けた努力義務、公開買付者及び 日立製作所が本不応募契約に基づく自らの義務の不履行又は表明保証事項に違反した場 合の補償義務、自らに発生する公租公課及び費用の負担義務、秘密保持義務、契約上の権 利義務の譲渡禁止義務を合意しているとのことです。

 

2.前提条件

 

さて、この主たる義務の発生条件となる前提条件は以下のとおりだ。

 

本前提条件は、大要において、

①本クリアランスの取得、

②当社取締役会が、本公開買付けが実施される際に、(i)本公開買付けにおける当社株式1株当たりの買付け等の価格(下記「2.買付け等の価格」の箇所において定義します。)が一定の合理性を有する旨の言及を含み、(ii)本公開買付けに賛同する旨の意見を表明することを決議し、また、かかる決議が撤回又は変更されていないこと、

③当社取締役会が本公開買付けに関連して設定した特別委員会が、当社取締役会に対して、上記(i)及び(ii)を満たす当社取締役会としての意見を表明することは相当である旨の答申を行い、また、かかる答申が撤回又は変更されていないこと、

④本公開買付契約に定める当社による表明及び保証(注2)【筆者注:この点については3.で議論する】が、いずれも重要な点において真実かつ正確であること、

⑤本公開買付契約に基づき当社が遵守すべき義務(注3)の重大な不履行又は不遵守がないこと、

⑥当社及びその連結子会社を総体としてみて、その資産、経営又は財務状態に重大な悪影響が生じておらず、かつ、貸付実行不能事由((i)天災・戦争テロの勃発、(ii)電気・通信・各種決済システムの不通障害、(iii)東京インターバンク市場において発生した円資金貸借取引を行い得ない事由、及び(iv)その他上記(i)から(iii)までに準じる金融機関の責によらない事由のうち、これにより金融機関からの資金調達の実行が不可能又は著しく困難となったと第一順位のシニアローン貸出金融機関が客観的かつ合理的に判断するものをいいます。)が発生していないこと、

⑦当社の全ての取締役が当社に対して、本スクイーズアウト手続(下記「(2)意見の根拠及び理由」の「①本公開買付けの概要」の箇所において定義します。)の完了を条件として取締役を辞任する旨の辞任届を提出していること、

⑧当社の株主により、剰余金配当に係る株主提案がなされていないこと、

⑨本取引を制限又は禁止する政府機関等の判断等が存在しないこと、

⑩本公開買付けが開始されていたとするならば、本公開買付けの撤回が認められるべき事情が発生していないこと、

⑪当社に関する未公表の重要事実等が存在しないこと、及び

⑫2023年3月期末時点の当社の連結ネット有利子負債の額が、当社がその予想値として公表している金額を上回らないこと、から構成されます。

 

①については、当然だろう。独禁法等のクリアランス抜きに本公開買付けを実施してしまえば、該当国の法令上違法な公開買付けとみなされ、該当国の当局から本公開買付けを止められかねない。

 

②、③についても、公開買付けの案件であれば当然と言える対応であろう。対象者の取締役会が賛同意見表明を出さなければ同意なき公開買付けに近い色彩を帯びてきてしまうし、特別委員会の相当意見がなければコンフリクト等について疑義が生じかねない。④、⑤、⑨、⑩も、このような案件で通常合意される内容である。⑫は、本件固有の前提条件であるが、東芝としてはネット・デッドが予想値を上回らない自信があったのだろう。

 

さて、興味深いのは上記以外の前提条件だ。

 

まずは⑥のいわゆるMAC条項だ。このような案件では対象者側はディールの安定性を重視することが多く、それが候補者を選ぶ基準の一つとなることが多い。そのため、対象者としてはMAC条項に対する抵抗感が強い。対象者がコントロールできない事情によりディールがご破算になってしまう可能性があるからだ。しかし、東芝はMAC条項に応諾したようだ。

 

対象者の意見表明プレスをみると、2022年10月以降はJIP以外の実質的な候補者はいなかったことが分かる。したがって、もしかしたら同月以降は、JIPが交渉上優位な立場にあったのかもしれない。JIPの立場からすると、ウクライナ戦争、為替相場の乱高下と世相は決して安定しているとはいえないため、MAC条項は必須と思えるからだ。個人的には、MAC条項を勝ち取ったことはJIPの大勝利のように思う。これから何あれば、MAC条項を理由に本公開買付けの実施を取りやめることができる(少なくともその理由付けができる、ひいてはそれを理由により有利な条件を東芝から引き出しうる)からだ。

 

⑧については、剰余金配当がなされると、ネット・デッドの水準が変わり、エクイティ・バリューが変わるからということなのであろうが、剰余金配当に係る株主提案がなされるか否かは東芝としてはuncontrollableであり、これを認めるには抵抗感が強いのではないか?実務的には少額の剰余金配当であればこの前提条件をウェイブすることが握られているのかもしれないが、ここからも東芝に交渉力がなかったことが認められるようにも思える。私が東芝の代理人であれば、剰余金配当に関する株主提案にthresholdを付け前提条件になるべくヒットしないようにするか、CPにはせず、キャッシュが減った分についてのみ公開買付価額の変更を認めるような建付けにしたかもしれない。

 

⑦についても味わい深い。ここだけを見ると経営陣を一掃するようにも見えるが、「本公開買付け後の経営方針」をみると、これまでの経営方針を継続するとも記載されており、かつ、経営陣は現時点では決まっていないとの記載もある。これまでの経営方針を継続するのであれば、経営の継続性の観点から経営陣は残しておくべきにもかかわらず、経営陣は現時点では決まっていない。買収後の経営方針については不安を抱かざるを得ないような生煮えの開示になってしまっているが、この点は経営の根幹をなすところであり、関係者の合意がとれなかったのであろう。

 

なお、本取引後における公開買付者、公開買付者親会社、当社の役員に係る具体的な人選は本日現在において実施していないとのことです。…加えて、本取引後の当社の経営体制は、本取引後に当社との間で協議の上決定する予定であり、また、本取引後の公開買付者及び公開買付者親会社の経営体制については、本取引後、本関連ファンドと協議の上決定する想定であるとことです。公開買付者は、当社の取締役に対して、本スクイーズアウト手続の完了を条件として当社の取締役を辞任する旨の辞任届を提出することを求めていますが、これは、必ずしも当社の取締役の総入れ替えを意図しているものではなく、当社の取締役が本スクイーズアウト手続の完了を条件として辞任した上で、今後の公開買付者と当社との協議を踏まえて決定される新経営体制を発足させることを意図しているとのことです(そのため、辞任した上であらためて取締役に就任する者がいることもあり得るとのことです 。)。

 

少し長くなってきたので今日はここまでとし、明日以降に3.乃至5.について感想を述べたい。

AI時代の法律業界?

はじめに

 

AIの進化には驚かされる。GPT3からGPT4の進化は非連続的なものを感じざるを得ない。私は法律家なので気になるのはやはりBar Examの正答率だ。米国の全州統一の司法試験の結果について見ると、GPT3.5では213/400のところ、GPT4では298/400となったようだ。これはどうやらTop 10%の結果らしい。

 

日本の旧司法試験を解かせてみたというツイートを見かけた。結果としては、まだまだといった印象を受けたが、時間の問題であることは明らかだ。日本の司法試験の結果がふるわなかったのはGPT4がアクセスできる日本の法律の情報量が十分でなかったからであろう。

 

法律問題を解決しようとするとき、日本の弁護士の誰もが条文を見て、紙の本を見る。これが弁護士の基本動作だろう。しかし、私が米国で研修した事務所ではこのような動きをする弁護士はほとんどいなかった。大手判例検索会社が法律情報を体系だって説明したあんちょこを用意しており、彼らは法律問題を解決するためのそのあんちょこを見る。Open AIがこの情報にどこまでアクセスできたかは不明であるが、このような情報に仮にアクセスできたとしたのであれば、米国の司法試験でもTop 10%の結果が出せるのも頷ける。

 

権利関係の処理が難しいであろうが、例えば、Legal LibraryとOpen AIが競業したら、日本の司法試験も解けるようになる日は近いであろう。

 

AI時代の法律業界のストーリーその1ー中小事務所の躍進?

 

弁護士業界のGame Changeの日が近づいているのをひしひしと感じる。

 

ストレートに考えると、中小法律事務所はチャンスの時代が到来しているように思える。大型M&A(それに伴うLDD)、不祥事対応、米国訴訟対応、大型倒産事件、これらの案件は多くのマンパワーが必要とされ、主に四大と言われているような大規模事務所でしか対応できなかった。そして、これらの大型案件が大規模事務所の収益の柱となっており、彼らの地位を盤石にしていた。しかし、数年後はAIを駆使すれば、中小規模でも大型案件を取り組める時代が来るだろう。参入障壁が高かった大型案件の参入障壁がぐっと下がり、ここの競争は激しくなるはずだ。

 

他方、大規模事務所は、多くの人を雇っており、これまでの規模・収益を維持できるかは大きな疑問符が付く。いわば独占していた大型案件は中小規模の事務所にシェアを一定程度は奪われてしまうであろう。また、大量の文書のレビュー、基本的なドキュメンテーションの多くはAIが代替すると思われるので、(レビューという作業は人間に残るものの)タイムチャージという請求方式をとっている限り、これまでのような金額感のリーガル・フィーを請求することはできないであろう。さらに、高額の賃料・バックオフィス人材に対する人件費等の間接費は、中小規模の事務所と比較して、相当程度大きいはずだ。そのようなことを考えると、大規模事務所の将来は暗いものと言わざるを得ない。

 

AI時代の法律業界のストーリーその2ー大規模事務所の寡占化?

 

しかし、本当にそうなのだろうか、とも思う。秘密情報の問題等を考えると、今後は汎用的な法律専門AIをベースを各事務所が導入した後は、各事務所が自らのAIをカスタマイズしていくのではないのだろうか?これが正だとすると、事務所が保有するAIの質は事務所に所属する弁護士の質と案件の数に左右されることとなる。そうなると、弁護士と案件の質・量を考えると、大規模事務所にやはり一日の長があり、大規模事務所が保有するAIの質が他の事務所が保有するAIの質を圧倒するかもしれない。

 

このストーリーの場合、ある種勝負あったで、逆に中小事務所はかなり厳しい立場に立たされる。大規模事務所は安価で良質のサービスを大量に提供でき、それがゆえにさらにAIの質が向上し、さらに安価かつ良質なサービスが提供できるようになる。いわばネットワーク効果が働いている状態だ。大規模事務所が今まで取りこぼしていたいわゆる細かい案件も対応できるようになり、中小事務所を駆逐するという将来像も考えられる。

 

AI時代のために何をすべきか?

 

だが将来は誰にもわからない。私が予想した未来以外のストーリーもあるはずだ。法律事務所はこのような不明確な時代をどのように生き残っていけばいいのであろうか?

 

どうやらAIと弁護士が協同することは間違いない。これまでは法律事務所のKSFは弁護士の質と考えられていたが、どうやらこれからは弁護士「と」AIの質になりそうなことは間違いない。したがって、私であれば、一刻も早くAIを導入し、1秒でも早くAIの教育にいそしむだろう。AIを上手に教育するには、法律家だけでは足りない、AIの仕組みを分かっているプロフェッショナルが必要だ。したがって、IT人材も雇い、弁護士と一緒に自社のAIを強化する体制を整える。

 

またタイムチャージ制の撤廃も重要なイシューだろう。丁寧に、だが、可能な限り迅速に、タイムチャージ制を撤廃し、AIに対する投資も回収できるようなフィー体系に変更する。タイムチャージ制を維持している限り、右肩下がりは避けられない。まずは赤字覚悟で、fixed feeに変更するのはどうだろう?Fixed feeであれば、かけた時間ではなく、数で売り上げを作ることができる。優秀なAIがあれば、数をこなすことは簡単なはずだ。それか、弁護士のタイムチャージだけでなく、AIの使用量も請求するスタイルにする。案件に関連して、AIに読み込ませた情報量及び出力した情報量をそれぞれ請求するのだ。これであれば、大型案件での高額なリーガル・フィーを正当化できるし、依頼者としても納得感があるかもしれない。

 

世の中の仕組みがガラッと変わるので、法律事務所もガラッと変わる必要がある。この変化に取り残される法律事務所から淘汰されていくのだろう。時代の流れに淘汰されないように常に柔軟性を持っていたい。

秘密保持契約における目的外使用その2:情報の色付けの可否について

 

はじめに

今回は前回に続く秘密保持契約(NDA)に関するエントリーである。

前回の記事はこちらから:

 

businesslaw-diary.com

さて、前回の記事は目的外使用について記載したが、今回は情報は色付けできるか?という点について検討してみたい。

 

前回の例で考えてみよう。前回は、A社のM&Aを検討した金融機関の審査部の担当者が、後日、別の商取引(コーポレートローン?)の審査をする場合を検討した。この場合、ウォールを敷いて別の担当者が担当すればよいのではないか、という考え方を示したが、一見これは正しいように思うが、これはある前提に基づいていると思う。情報が色付けできるということだ。前回と同じような例で考えてみよう。

 

甲乙Aの例

 

例えば、金融機関甲の担当者Xは投資会社乙が行うM&Aに対する融資を検討する際に甲との間でNDAを締結した。

甲-NDA(甲乙)-乙

 

担当者Xは、かかるNDA(甲乙)に基づき、乙からA社の直近の財務情報を取得した(本財務情報)。本財務情報によるとA社の業績は急激に悪化しており、これに基づきXは乙に対する融資を中止した。

 

その3か月後、甲の担当者YはA社からコーポレートローンを直接依頼された。YはA社とNDAを締結し、Yも本財務情報を取得した。

甲-NDA(甲A)-A

 

Yも、Xと同様、A社の業績を懸念しコーポレートローンを断った。

 

この場合、いずれも本財務情報を使用しているものの、乙に対する融資を断ったXとコーポレートローンを断ったYは異なるので、一見問題ないように見えるものの、甲という主体で考えるとどうだろう?甲は、本財務情報は乙に対する融資にしか使用してはいけないにも関わらず、Aに対する融資を断っている。NDA(甲乙)の観点からいえば、これは目的外使用に該当してしまうのではないか?

 

NDAの前提

 

多くのNDAでは、目的外使用が禁止される秘密情報は、「情報開示者が情報受領者に対して開示した情報」といった形で規定されている。この規定は、情報開示者が開示していない情報であれば、同じ情報を第三者から入手した場合であっても、目的外使用が禁止される秘密情報に該当しない、と読み込むこともできそうである。したがって、情報には色が付けられることを前提にした規定とも読める。

 

他方で、多くのNDAでは、「第三者から秘密保持義務を負担せずに取得した情報」については、目的外使用が禁止される秘密情報に該当しないとしている。この例外規定の趣旨は、情報受領者が秘密保持義務を負担せずに取得した情報を自由に使えるようにするためと考えられており、これ自体は正当であろう。しかし、これは逆に言うと、第三者から秘密保持義務を負担「して」取得した情報は、目的外使用が禁止される情報に該当するということになる。この例外規定まだ読むと、通常のNDAが情報には色が付けられないことが前提となっていると言えるだろう。

 

しかし、これを前提とすると、上記の事例では、上述のとおり、甲は、NDA(甲A)に基づきA社から取得した本財務情報は、NDA(甲乙)上では目的外使用が禁止される情報にあたるということになり、これをA社のコーポレートローンを検討した甲はNDA(甲乙)を違反したことになるという結論になってしまう。これはいかにも具合が悪い結論であるが、巷にあふれているNDAはこの問題は見過ごされているように思われる。

 

解決の方向性

 

当事者の合理的意思解釈という視点で考えると、今回の例でいえば、乙は、甲がA社から本財務情報を取得し、それをコーポレートローンに使用することを禁止する趣旨ではないと考えている可能性が高いし、甲としてもそのような使用が許されていると考えているだろう。この背景には、情報は色付けすることができるというという考えがあるようにも思われる。したがって、一つの解決の方向性としては、NDAにおいて情報が色付けできることを前提とした形にする、具体的には、第三者から取得した情報は秘密情報に含まれない、としてしまうということが考えられる。

 

しかし、情報開示側からすると、これはあまりにも例外が広く一抹の不安が残る。やはり情報は色付けができないことを前提にしつつ、一定の落としどころを探るのが筋がいいだろう。例えば、目的外使用の禁止に以下のような但し書きを加えるのどうだろうか?

ただし、この規定(目的外使用の禁止)は、第三者から秘密保持義務を負担して取得した情報を、当該取得の目的のために使用することを妨げるものではない。

やはりNDAといえど奥が深い。言葉でルールを規定する以上、どこかで曖昧さや不具合・不都合が生じる。これが法律の難しいところであり、おもしろいところだ。

 

今回紹介した問題は、私の中ではかっちとした結論は出ていないところなので、是非皆さまの意見が聞きたいところである。

秘密情報の目的外使用を遵守することの難しさ

秘密保持契約、通称NDA(Non Disclosure Agreement)は企業法務の世界では初歩の初歩で、私も若いころは千本ノックのようにNDAのレビューをしていた。しかし、年次があがるにつれて、NDAは若い人に任せてしまっており、実はここ数年は真面目に検討をしていなかった。私と同じくらいの期の弁護士はどうなのだろう?まだNDAも手を動かして見ているのだろうか?そんなこんなで少しNDAと離れていたが、前のエントリーにも書いたとおり、うちの事務所にも久しぶりの新人弁護士が入ってきたため、私も久しぶりに新人弁護士とNDAを検討した。今日はそんなNDAの話だ。

(前のエントリーはこちら。ちゃんと弁護士会に連絡して名簿登録しました。)

businesslaw-diary.com

 

NDAには必ず目的外使用の条項が入る。例えば、M&Aを検討するために開示された情報は、かかるM&Aの検討のためにしか使わない、というものだ。趣旨としては納得できる。目的外使用により不測の不利益を被ることを防止するためであろう。ご存知のとおり、M&Aではデュー・ディリジェンスといって、M&Aの対象となっている会社の詳細な情報が開示される。その中には会社の財務情報や紛争状況等々、対象会社が不利な情報も多く含まれる。例えば、この買主が、このM&Aとは別に、対象会社と長年の取引関係にある場合、これらデュー・ディリジェンスで開示された情報を、対象会社との商取引のために使われてしまったら、取引の停止等の不足の損害を対象会社が被ってしまうリスクがある。

では、一般論としてはこれが成り立つとして、金融機関のような多数の情報が集まる企業は本当にこの条項を応諾してもよいのだろうか。金融機関だと審査部が特に問題になるかもしれない。上記の例でいえば、本来的にはウォールを引いて、対象会社に対するM&Aを審査した者が、別の商取引の審査をしないようにすべきなのだろう。しかし、審査部は極めて多数の融資を審査する部署であり、そのようなウォールを敷いてしまうと、実務が回らないという事態に陥ってしまうのではないか。また、金融機関は多数の取引先とNDAを締結して情報を取得すると考えられるから、そのようなウォールを立て始めると際限がなくなってしまうという問題があるかもしれない。

実際に、A社のM&Aの審査をした担当者が、A社との別の取引(例えば、通常のコーポレートローン)の審査をする場合を考えてみよう。当然、その担当者はM&Aのときに使用した情報を直接的には「使用」しないようにするはずだ。しかし、そうだとしても、M&Aのときに使用した情報は多かれ少なかれ担当者の心象に影響を与えてしまうのではないか。もちろん濃淡の問題であるが、このような場合は全く問題がない(目的外使用ではない)、と言い切るのは少し不安がある。心象に影響を与えてしまっている以上、方法を無意識的に「使用」したという主張も全く筋がないというわけではないからである。また、この問題が表面化するリスクの程度を考えてみても、M&Aも実らず、コーポレートローンの審査に落ちてしまったら、いわば逆恨みでA社が上記のようなクレームをしてくるリスクは否定できないように思われる。

したがって、このような場合には、目的外使用の禁止について実はなんらかのカーブアウト文言を入れた方がいいのかもしれない。

目的外使用の禁止という当然の条項でも、実はリスクが潜んでいることがある。そのような事案に応じたリスクを指摘するのが弁護士の役割であり、クライアントへの価値提供ができる部分なのであろう。

恥をかきたい

恥をかくというのが年々怖くなっている。弁護士を始めた頃は新しい分野の事件も新しい分野も法律も前向きに取り組めていた。さらに遡れば、ロースクールの頃は法律と名の付くものは食わず嫌いをせずに取り組んでいたし、大学生の頃は法律だけではなく、経済学、会計学、果ては民俗学と、いろいろな分野の学問に手を出していた。

 

しかし、世間でアラフォーと言われる年齢になってくると、想像以上に他人の目を気にするようになってしまった。知らない分野の法律が関わる事件があると、弁護士●年目なのにこんなことも知らないの?と思われたくないので、なるべくなら自分からは関わろうとしないし、法律以外の分野が関わる場合はむしろ自分は触らないようにしている。これは、プロフェッショナルの態度としては正しい態度なのだろう。プロフェッショナルに期待されるのは自分の専門分野での価値提供であり、そのために可能な限り効率的に仕事をすべきである。自分の専門分野以外は当然時間もかかるので効率的な仕事はできないし(クライアントに必要以上にチャージしてしまうことになる)、専門分野以外に手を出してミスをした日には目も当てられない。

 

が、本当にそれでいいのかな?と最近よく思う。プロフェッショナル論を盾にして楽をしようとしている自分、新しい勉強を億劫に思っている自分がいることは否定できない。私の事務所は数年ぶりに新人弁護士を2名採用した。彼・彼女の輝かしい瞳がこの気持ちに拍車をかけるのだろう。彼・彼女の瞳が「本当にそれでいいの?」と訴えてくるのだ(被害妄想)。

 

新人弁護士は本当によく勉強している。驚くべきことは、近頃の若い子は、法律の勉強だけではなく、Web 3・メタバース・ブロックチェーンといった法律以外の分野にも臆せず飛び込んでいる。ただ、彼・彼女は当然だがよく間違える。よく指摘される。しかし、こちらが感心する程のスピードで成長している。間違えることを過度に恐れず、高速にPDCAサイクルを回しているのだ。彼・彼女の姿を見ていると、自分ももっと挑戦しなければいけないのではないか、そして、自分も失敗を恐れずチャレンジをすればもう一皮剥けるのではないか、という気持ちが湧いてくる。

 

とはいえプロフェッショナルサービスを提供するものとして、下手に専門分野を広げると痛い目にあうし、まして自分の専門分野についても未熟であることは重々承知しているので、まずはそちらを深堀りすることを優先したい気持ちがある。どうしようかと思案していたところ、新人弁護から国選弁護の相談を受けた。私が国選弁護を担当したのは遠い昔のことなので、何もかも忘れていた。私も一緒になってあれこれ調べて、新人弁護士は結局不起訴に持ち込むことに成功した!この経験が私の心に火をつけた。そういえば、自分が弁護士としてしたかったことは、社会正義の実現とか、弱者救済とか、法の下の平等の実現とか、青臭いものだった。今はいっちょまえに企業法務弁護士です、という顔をしているけれども(誤解を恐れずに補足するが、この仕事はとてもおもしろいし、誇りをもって仕事をしている。)、その薄い皮の下には青臭い気持ちが未だあることを知った。それを失敗したくない、億劫という気持ちで後回しにしていた。ということで、今年の目標を決めた。国選弁護を久しぶりに(十数年ぶり?)担当する。

 

たくさん間違って、「登録●年目の弁護士のくせに…」と白い目で見られるだろう。もしかしたら、被疑者は「頼りない人が来てしまった」と思うかもしれない。しかし、国選弁護であれば、自分がこの分野の素人であることを白状すれば、優秀な裁判官、検察官の方が(内心では私の手慣れなさを心底嘆いていると思うが)サポートしてくれるはずだし、私の弁護士の友人も力になってくれるはずだ。

 

週が明けたら、弁護士会に電話して、名簿に載せてもらおう。本当は歌もダンスもゴルフもテニスも乗馬もトライしてみたいのだが流石にそれは少し引け目があるので(笑)、まずは刑事弁護から始めてみようと思ったアラフォーの春。

乱文:ChatGPTと弁護士業務

X社に勤める3年目の法務部員Aは、出勤してパソコンを立ち上げると、営業部のBからY社との間でX社の製品に関する売買契約を締結したい旨のメールが来ていた。どうやら今回の売買契約は、継続的な契約であり、また、売買価格も固定額ではなく、原料甲の価格に2割を上乗せした価格になっているようだ。X社には単発かつ固定額の取引しか実績がない。しかし、Aに焦りの色は見えない。X社用にカスタマイズしたChatGPTにドラフトをお願いすれば、5分とかからず正確なドラフトがあがってくるのだ。後はそれを確認し、修正が必要なところを修正してBに送ればいいだけだ。ChatGPTに売買契約の作成の依頼をしたとろころ、今度は広報のCからX社の社員がSNSで炎上しているので法的な問題点及び対応策のベストプラクティスを教えて欲しいとの連絡がきた。X社で社員が炎上するのは初めてだ。しかし、ここでもAに焦りの色は見えない。ChatGPTに聞けば答えはすぐ返ってくるからだ。あとは返ってきた答えを確認し、法律用語をCにも分かるように直したうえで、回答してあげればいいだけだ。

 

これが5年から10年後の(上場企業の)法務部の一般的な姿であろう。このような世界観になったときに弁護士は必要なのだろうか。私としては弁護士が必要と考えているが、理由は以下のとおりだ。

 

まず第一の問題として、ChatGPTの回答の正確性を担保する必要があるからだ。今のChatGPTを使うと分かるとおり(また、存在しない論文が引用されていたという声が聞こえてくるとおり)、ChatGPTはかなりの精度を誇っているものの、まだまだ完璧とは程遠い。ChatGPTの回答はとっかかりとしては大きな意味を持つが、その回答の正確性を担保するため弁護士に確認する必要があるだろう。

 

また、ChatGPTの技術面に詳しくないが、これまでのDeep Learningの延長線上の技術を使っているのであれば、推論は苦手であるはずである。したがって、「あるある」の問題(個社にとっての「あるある」ではなく、世間一般にとっての「あるある」)を解決するには大いに力を発揮するが、未知の問題、学説・判例ともに固まっていない問題については人間の能力の方が高いはずである。今日の弁護士業務を見ても、上場企業からの質問の多くはいわゆる未知の問題であり、「答え」が明らかな問題は少ない。上場企業からすると、「あるある」の問題は社内のリソース(社内弁護士を含む)を使って解決できているのであり、わざわざ外部の専門家を使う必要がないからだろう。

 

このことからもChatGPTが弁護士の仕事を「奪う」ということはない(あるとしてもその範囲は限定的)だろう。他方で、ChatGPTは法務部の仕事を「奪う」かもしれない。法務部が日常的にしている「あるある」の仕事の多くは、ChatGPTにより代替される可能性が高いからだ。

 

かといって弁護士業が安泰化というとそうでもない。

 

ここからは今よりさらに依頼者の弁護士を見る目が厳しくなるだろう。ChatGPTが依頼者と弁護士の情報格差をこれまで以上に埋めるからだ。依頼者は主要な論点、条文、関連する裁判例、これらの情報に瞬時にアクセスできるようになる。したがって、これらの情報を知っていることは無価値になり、それらの情報をいかに事案に当てはめ、分析できるか、これが弁護士の腕の見せ所になるだろう。

 

このことはインターネットが世間に普及されていたことから言われていたことだ。しかし、今日に至っても想像以上に依頼者と弁護士の情報格差は埋まっていない。これにはいくつも理由があると思うが、一つは検索自体に技術が必要であり、必要な情報に辿りつけないことがあるだろう。しかし、ChatGPTではそのような技術は必要ない。誰でも使える「更問」を繰り返せば、簡単に本当に必要な情報にたどり着くことができるのだ。

 

また、タイムチャージで稼ぐビジネスモデルではこれまでのような成長はできないだろう。弁護士業務で最も時間を使うのはリサーチとドラフトであるが、これらはいずれもある程度はChatGPTで代替することができる。弁護士が業務に必要な時間は大幅に削減されるはずだ。

 

例えば、上記であげたSNSでの炎上の法的問題とベストプラクティスを調べようとしたら、法的問題を調べるのに2-4時間、ベストプラクティスを調べるのに同じく2-4時間くらいは平気でかかるだろう。全体で10時間弱の稼働になり、1時間2万円のタイムチャージであれば20万円だ。これがChatGPTに聞いて、その裏どりをするだけなので、3分の1又はそれ以下の時間で解決できるだろう。

 

楽観シナリオも考えられる。誰もがChatGPTで法的問題を発見することはできるので、弁護士の相談が増えるというものだ。しかし、わざわざ弁護士に聞く人が増えるとはあまり考えられないだろう。したがって、タイムチャージで稼いでいるいわゆる企業法務系の弁護士事務所は、タイムチャージ制を維持する限り、これまでのように売上を伸ばすことは難しいだろう。

 

では、このような事務所の次の一手は何であろうか?私個人としては、単価をあげるかしかないと思う。逆に我々の付加価値を積極的にアピールする(すなわち単価をあげる)いいチャンスと捉えることもできる。依頼者と弁護士の情報格差がなくなり、ChatGPTの回答という一つの基準ができるため、依頼者も弁護士の能力をより客観的に評価できるようになるだろう。素晴らしいサービスであるChatGPTを超えるアドバイスをすれば、依頼者はいかに有用なアドバイスを受けているかより強く実感し、単価が高くとも喜んで支払っていただけるのではないか?私個人としては、法律事務所の単価は、ビジネスコンサルの1時間の単価くらいまであげてもいいのではないかと思っている、

 

上記のようなサービスを提供するため、我々弁護士の日々の研鑽は欠かせないだろう。しかし、それは従前のような知識を得る形の研鑽では不十分かもしれない。常に未知の問題にチャレンジし、自分なりの答えを見つけるのが何よりも重要だ。この能力は本を読んでも身につかない。となると、日々の1件1件の案件を大切にする、という使いつくされたつまらない教えが重要なのではないか、とここまで書いて、一周回って気づかされたような気がする。

はー弁護士業務って研鑽ばっかりで辛いっすね笑