ビジネスロー・ダイアリー

中年弁護士の独り言兼備忘録

公正な買収の在り方に関する研究会が公表した指針原案の雑感-Majority of Minorityが許される場面の整理

 

はじめに

 

GWが終わるので久しぶりの投稿をしたい。GWも体感としては一瞬で終わってしまったが、普段はできないインプットができて個人的には満足のいく休暇だった。今回はGW期間中に読んだ公正な買収の在り方に関する研究会が発表した指針原案(第8回研究会での議論用)の雑感を書いてみたい。

 

なお、ご存知のとおりであるが、公正な買収の在り方に関する研究会は各回で使われた資料や議事録を公表している。気になる方がいれば是非原本もご覧いただきたい。

www.meti.go.jp

 

前提

 

まずは前提として、公正な買収の在り方に関する研究会の研究対象を説明したい。各回で対象となる主題が少しずれているようにも思えるが、有体に言ってしまえば、いわゆる敵対的買収(研究会で使われている言葉を使えば「同意なき買収」)を仕掛けられた場合の取締役(会)の行動指針とまとめられるだろう。その外延は実は不明確であるが(例えば、取締役の選解任を通じて実質的に対象会社を支配する場合もある)、主な対象は同意なき「買収」がされた場面と考えてよいだろう。

 

さて、記載内容については、今までの裁判例を踏まえたものであり、特段目新しい物はないといったものである。実務家からしたら、「まぁそうだよね」というものをまとめているという印象であるが、このような形でまとまった資料があること自体に価値があると思う。ただ、実務家が最も気になっており、今後最も争点になると思われる論点である”Majority of Minorityの株主総会”がどのような場合に許されるのか、という点に回答や指針が出されなそうであるのは少し残念であった。

 

同意なき買収に対する買収防衛の総論

 

この議論の前提として、どのような場合に同意なき買収に対する防衛が許されるのか?という点について説明する。細かい法律的な議論はおいておくと、要するに防衛をする「必要性」と「相当性」が認められる場合に防衛が許されると考えられている。

 

この「必要性」と「相当性」の考慮要素として最も大事なものは、「必要性」については株主総会での承認、「相当性」については買収者に対する損害軽減の可能性が担保されていることだ。

 

まずは「相当性」について簡単に補足すると、現在実務上使われている新株予約権無償割当スキームを利用すれば多くの場合で「相当性」は認められるだろう。なぜならば、現在実務上使われている新株予約権無償割当スキームによれば、買収者に対して第二新株予約権が交付され、かかる第二新株予約権は株式保有割合が一定割合以下になった場合に会社が買い取るというスキームとなっている。すなわち、買収防衛策が発動された場合は、一定の割合を超える部分の株式については金銭で返還されるという仕組みになっているのだ。ただし、例外として、三ツ星事件のように新株予約権無償割当スキームを利用しても買収者が実質上損害を軽減できない場合は「相当性」は認められないので注意されたい。

 

「必要性」が認められるMajority of Minority

 

次に「必要性」については株主総会の承認が最も重要な要素である。ここに冒頭で記載したMajority of Minorityの議論が関係してくる。通常は買収者を含めた株主を考慮した上で承認の可否を決めるが、東京機械製作所の判例をベースにすると、買収者を考慮しない形での株主総会承認でも「必要性」が認められる可能性がある。実務家としてはこの点が最も気になる点であった。

 

この点について、一定の指針を出すことを期待していたが、残念ながらこの点の指針は出されないようである。

 

現在公表されている指針はあくまでドラフトであり、研究会の議論を経てアップデートされていく。逆に言うと、指針原案を追っていけばどのような議論がなされているかある程度追えるのである。特に今回は前回からのアップデート部分が示された指針も公表されているので、その点を見ると実に興味深い。

 

実は前回公表された指針原案を見ると、この点についても一定の指針を示すことを目指していることが分かる。しかし、今回公表された指針原案ではその点がばっさり落とされ、すっきりとした記載になっている。興味がある方は是非指針原案の49、50頁をご覧いただきたい。

 

東京機械製作所の事件では、買収者の市場内買付けによって株主に対して強圧性が発生していたこと、買収者が大量保有報告書の提出を故意に遅延していることを理由として、買収者を除いた株主総会承認を正当化していた。しかし、市場内での株式売買には一種の強圧性はつきものであり、この件でそれを取り立てて問題視することには違和感がある。大量保有報告書の問題についても、本来的には大量保有報告書規制の文脈で解決すべきである。最高裁の理由付けはこの点から説得力が十分にあるとはいえず、どうしても結論ありき(この部分は闇が深いので調べたい読書は独自で調べて欲しい)の超法規的な解釈に思えてならない。

 

経産省が大々的にMajority of Minorityが許される場合の整理を諦めたことからも、東京機械製作所の判決を一般化する形で正当化することは難しいことが見て取れるように思える。

 

したがって、実務家としてはやはりMajority of Minorityは基本的に認められない、東京機械製作所の判例は事例判決であり、たとえ同様な事例だとしてもMajority of Minorityが認められる可能性は低いと言わざるを得ない、といった態度で臨まざるを得ないように思う。