ビジネスロー・ダイアリー

中年弁護士の独り言兼備忘録

開示資料から考えるツイッター社買収合意の解除の可否③

以下の昨日のエントリーからの続き。今日は少しだけここまでの議論をまとめてみたいと思う。

 

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さて、以上の分析からすると、仮にツイッター社がスパムアカウント等の情報をマスク氏に提供していないとすると、実は法律論的にはマスク氏の主張の方が通りやすいように思われる。しかし、そうだとしても、マスク氏が本契約に違反しているのであれば形勢逆転。ツイッター社はマスク氏による解除を免れるだけでなく、(i)マスク氏に本契約の履行を迫るか(報道ではツイッター社が契約の履行を主張しているとあったが、ここまで関係が悪化しているにも関わらず、このディールを進めたいのか謎ではある。。)、または、(ii)自ら解除してリバース・ブレークアップ・フィーとして$1,000,000,000を請求することができるのだ。

日本ではこのような大規模M&Aが大きな訴訟に発展することは少ないが(あっても株式買取請求がほとんどとの理解。もしかしたら大手法律事務所や外資系事務所が寡占しており、私のような企業法務の端くれには依頼されていないだけかもしれないが。。苦笑)、アメリカではこのような訴訟が多発している(私の留学時代の恩師の話によると、大規模M&Aには訴訟が付き物とのこと。なお、これがアメリカのリーガルマーケットを支えており、米国系事務所が強い理由でもあるそうな。)。このような法廷闘争がアメリカにおけるM&Aに関連する法律の発展の土台となっているのだろう。日本ではアメリカに比してM&Aに関連する判例は少ないと言わざるを得ない。裁判例が積みあがれば、M&Aに更なる法的安定性がもたらされ、M&A市場が活性化するという楽観的な見方ができる。しかし、他方で、仮に日本でこのような訴訟が多発するとなると、M&Aに対する消極的な態度を生み、逆に日本のM&Aの発展を阻害するという効果もあるように思う。アメリカでは訴訟ありきでも多くのM&Aが実行されていおり、法的側面からすると丁度いいバランスが保たれているのかもしれない。

今回の件もまた判例集に乗るような大きなケースになるだろう。片田舎の一弁護士として、本件の帰趨を興味深く見守っていたい。